約 773,992 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/898.html
「ただの人間には興味がありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者、異世界人がい たら、あたしのところに来なさい。以上!」 と、受験勉強のストレスから開放されて無事に高校生となり、その初日の挨拶で涼宮ハ ルヒが、かなり電波ゆんゆん……もとい、個性的な自己紹介をしてクラス全員をドン引き させたその日も、今では遠い昔のこと。 その後に続く宇宙人とのファーストコンタクト、未来人との遭遇、地域限定超能力者と の出会いを経てオレが巻き込まれた事件も──時には死にそうな目にあったが──今では いい思い出さ。 そう、すべては思い出になった。 結局、ハルヒの能力は完全になくなりこそはしなかったが、安定の一途を辿り、よほど のショックを与えない限り発現することはないらしい。だから、何かが終わったわけでも なく、何かが始まったわけでもない。結局、非日常的なことはオレたちSOS団にとって 日常的なこととなり、日々はただ流れた。 それぞれの今の状況を、軽く説明しようか。 長門はハルヒ観測の役目がまだ続いているのか、あいつと同じ大学に入学した。ただ、 一人の人間として生きる道も与えられたのか、将来は国会図書館の司書を目指している風 だ。あいつが公務員になるのは、どうも想像できないね。 朝比奈さんは未来へ戻った。いや、明確な別れの言葉を受け取ったわけではないから、 まだちょくちょくとこの時間帯にやってくることはあるようだ。ただ、その風貌は高校生 時代にオレを助けてくれた朝比奈さん(大)に通じる雰囲気となり、過去のオレたちを助 けるために過去と現在と未来を行き来していることだろう。 古泉は若き学生起業家だ。オレと違って頭のデキがよかったのか、それとも『機関』の 後ろ盾があったからなのか、IT関連でそこそこの業績を残している。無論、ハルヒの能 力が完全に消えたわけではないので、地域限定の超能力は健在。年に1回か2回は《神人》 退治をやってるようだが、昔ほどの重圧ではなくなったと言っていた。 そしてハルヒは、何を思ったのか考古学の道を目指して勉学に励んでいる。曰く「歴史 に埋もれた世界の不思議をすべて解き明かすのよ!」と息巻いていたが、まぁ、昔に比べ ると現実的というか、地に足が着いた意見というか、あいつも大人になったということか。 かくいうオレも大人になり──といっても、何が子供で何が大人なのか、その境界線が はっきりしないまま年齢ばかりが上書きされて──今では一人で暮らしている。残念なが ら、ハルヒと同じ大学ではない。 都内の三流……とまでは言わないが、決して一流とも言えない大学に通い、地元での知 り合いとも離れ、オレはオレで我が道を進んでいる。今ではこっちでも知り合いが出来た。 ただまぁ……艶っぽい話は何もないがね。 決してハルヒたちと一緒の道に進むのがイヤだったわけではない。かといって、是が非 でも一緒に進もうと思っていたわけでもない。なんだかんだと、ハルヒたちと過ごした三 年間は楽しかった。ただ、楽しかったからこそ距離を置いた。何故そうしたのかは、オレ がただ単に天の邪鬼だからかもしれないし、ハルヒがオレと距離を置くことを望んだから、 かもしれない。 その切っ掛けはたぶん……いや、間違いなく高校の卒業式だろう。各々の進路も決まり、 オレとハルヒが離ればなれになることが確定事項となっていたその日のことを、オレは今 でもはっきり覚えている。 ……………… ………… …… 形式通りの卒業式が終わり、女子生徒は別れに涙し、男子生徒は三年間恨み続けた教師 にどうやってお礼参りをしてやろうかと話し合う中、オレは毎日の放課後に通っていた文 芸部部室に向かっていた。誰かに呼ばれたわけでも、何か目的があったわけでもない。た だ、今日がこの道を通る最後の日だと思うと、やや感傷的にもなる。 いつもより遅い足取りで部室へ向かい、扉を開けると「あんたも来たの?」と、ハルヒ 一人だけがそこにいた。 「姿が見えないと思ってたが、ここにいたのか」 「そりゃあね、団長たるあたしが高校生活最後の日に、ここへ来るのはあたりまえじゃない」 「おまえでも感傷的になってるってわけか」 「おまえで『も』は余計ね」 パイプ椅子を引っ張り出し、オレは腰を下ろす。ハルヒはオレと2~3会話を交わした だけで、あとは黙って外を見ていた。耐えようがない沈黙、というわけでもないが、いつ も沈黙を守り続ける長門がそこにいるような、落ち着いた気分にもなれない。 オレの視線は自然とハルヒの後ろ姿に向けられていた。 「ねぇ、キョン」 オレの視線に気づいたのか、それとも沈黙に耐えられなくなったのか、ハルヒの方から 呼びかけてきた。「なんだ?」と返事をするも、こちらに目を向けようとはしない。 「あんた……だけじゃないけど……あたしに隠れて、いつもこそこそ何をしてたの?」 その言葉は、何の話だと惚けられるほど軽いものではなかった。はっきりすべてを知っ ているわけではないが、何かある、と勘の良いこいつは見抜いていたんだろう。 「何って……未来人と一緒に時間旅行をしたり、宇宙人と脅威の謎生物と戦ったり、超能 力者と悪の秘密結社を叩き潰したり……かな」 すべて本当のことだが、オレは努めてふざけ調子でそう言うと、窓の外に顔を向けてい たハルヒは、顔半分を振り向かせてオレを睨んできた。 「……それ、本気で言ってる?」 「本気か冗談か、どっちだと思う?」 「……言いたくないってわけね」 古泉の真似をして、オレは肩をすくめてみせる。出会った当初なら襟首掴まれて締め上 げられるところだが、今ではすっかり丸くなったもんだ。はぁ、っとため息をついて、オ レの方へしっかりと向き直った。 「ま、そういうことにしといてあげる。あたしも……この三年間、楽しかったしね」 どこかメランコリックな表情を見せるハルヒに、オレは気になることを聞いてみた。 「SOS団はこのまま解散か?」 SOS団を作ったのはハルヒだ。だから、解散させるか存続させるかを決定するのは、 ハルヒの役目だ。オレたち団員は……ま、従うだけさ。 「まさか。あんたたちは、あたしの忠実な下僕なの。呼んだらすぐに集まらないと承知し ないわよ。特にあんたは、一番遠くに行っちゃうんだし。遅刻したら、罰金だからね」 ハルヒはオレたちとの繋がりを断ち切ろうと思ってはいないらしい。ただ、それが未来 永劫続くとも思っていなかったんだろう。いつもは語尾にエクスクラメーションマークが 似合うのに、その日に限っては言葉に力がない。 「悪しき慣習のおかげで、罰金に対する免役がついたからな。あまり強制力はないぜ」 「あら、学生レベルと同じと思わないほうがいいわよ?」 「大学生も学生だろ」 「くだらない言い訳なんて、みっともないわ」 「まぁ……努力はするさ」 「そうね、あんたが一番頼りないんだから、努力してよね」 ああ、とオレが返事をすると、再び沈黙が訪れた。 残念ながら、そのときのオレには自分からハルヒに振れるような話題の持ち合わせはな かった。語るべき言葉はこの三年間で散々出尽くしたし、今更言うべき言葉など、何もない。 「んじゃ、オレはそろそろ行くよ」 「……ああ、そうだ。あんたに言うことあったの、忘れてたわ」 腰を上げたオレに向かって独り言のように、本当にたった今思い出したことのように、 ハルヒが口を開いた。その言葉にオレへの呼びかけがなければ、そのまま出て行きそうに なるくらい、本当にどうでもいいような口調だった。 「あたし、あんたのこと好きよ」 はにかむような甘酸っぱさも、照れるような奥ゆかしさもなく、それが世界の常識だか らただ告げただけのような──これと言った感情の機微もなくハルヒはそう言った。 だからオレは、すぐに何か言うことができなかった。驚きもしなかったし、嬉しさも感 じなかった。心の中がざわつく感じもなければ、浮かれることもない。そのことを予め知 っていたかのように、極めて冷静に返事をしていた。 「いつから?」 「ずっと前から。SOS団を作ったときからかしら」 「それを今、言うのか」 「今だからよ。昔、言ったでしょ? 恋愛感情なんて一時の気の迷い、精神病みたいなも んだって。でも三年間、その気持ちは消えなかった。三年経っても消えないなら、それは あたしの純粋な気持ちってことでしょ? ナチュラルなものなの。それを確かめるのに必 要な時間が、あたしには三年必要だっただけ。だから、今」 「オレは……」 「ああ、あんたの気持ちなんていいわ。ただ、あたしがそれを言いたかっただけだから… …三年間、ありがとう」 ──ありがとう、か。こいつの口から感謝の言葉が出てくるとはね、青天の霹靂ってヤツだ。 握手でも求めているかのように、ハルヒが手を突き出してきた。こんなしおらしく、け れどどこかサバサバとした表情は初めて見る。三年間、片時も離れずハルヒを見てきたつ もりだが、オレでもまだ知らない顔があったのかと──そんなことを思う。 オレは握手を求めるハルヒの手を握るべきかどうか、迷った。手を握り合うようなこと は、この三年間で幾度となくあったが、今はどこか照れる。 それでも、心を決めて手を差し伸べようとポケットから取り出すと、ぐいっとハルヒの 方から掴んできて力任せに引っ張られた。 相変わらずの馬鹿力め。不意打ちとは言え、男をぐらつかせる力を出せるのは、おまえ くらいなもんだ。だから……今こうしてオレの唇とおまえの唇が触れ合ってるのは、おま えのせいなんだぞ。 「じゃあね、キョン」 短いキスのあと、ハルヒはこの日初めて、笑顔を浮かべた。何かを吹っ切ったように、 どこか切なそうに。 それが──高校時代にオレが見た、最後のハルヒの姿だった。 …… ………… ……………… そして三年の月日が流れ、今に至る。あれからオレは、ハルヒに会っていない。あの日 の部室であいつは呼び出すようなことを言っていたが、実際にはそんなことはなかった。 かといって、まったく疎遠になってるわけでも……なってるのかな。卒業直後はメール のやりとりを、それこそ毎日のように行っていた。ただ今はそれほど頻繁なわけではない。 週に1~2通。タイミングが悪ければ、月1だっておかしくない。 それは互いにやるべきことが出来たからだし、互いの人生を歩み始めたからだ。人はそ れぞれ歩むべき道があり、オレとハルヒは高校を卒業すると同時に道が分かれた。 ただ、それだけ。それだけだと思っていた。 その日の朝、電話が鳴るまでは。 五月のゴールデンウィーク明け、妹が東京見物と称してオレのアパートを占拠していた 嵐が昨日でようやく通過したその日の朝のことだ。寝不足続きで昏々と眠り続けていたオ レは、間断なく鳴り続ける携帯の着音で無理矢理たたき起こされた。 乱雑に放り投げてある携帯に手を取り、不機嫌極まりない心持ちで通話ボタンを押す。 画面に映っている着信履歴を見なかったのは、一生の不覚と言えるだろう。 「はい、どちらさん?」 『も──し、み──です』 不機嫌極まりない声で電話に出たオレは、相手がすぐに理解できなかった。寝惚けてた ってのもあるだろう。昼夜逆転生活を余儀なくされたため、寝酒をかっくらったせいもあ る。おまけにアパートの立地が悪いので、よく電波が途切れることも原因のひとつに上げ ておこう。 「あ、誰だって?」 寝不足に苛々も相まって、最初より口調がきつくなってたかもしれない。布団から抜け 出して窓際まで移動しつつ、早朝から電話をかけてきた不躾な相手に、オレはつっけんど んに聞き返していた。 『ひゃうっ。あ、あの……朝比奈みくるです。えっと、今大丈夫ですか?』 「え?」 オレは携帯を耳から離し、着信相手の番号と名前を見た。ここしばらくご無沙汰だった 朝比奈さんの番号で間違いない。一気に目が覚めるとともに、思わず青ざめたね。 「あ、ああ、大丈夫です。すいません、電波状態がよくないもので」 『それより、今日って何日ですか?』 なんだそれは? というのが、正直な感想だった。気分を害されたんじゃないかと思っ た、オレのピュアな気持ちをわずかばかりでも返していただきたい。 こうして朝比奈さんと会話をするのも、実に久しぶりだ。過去と未来を行き来している 彼女には、こちらから連絡を取る手段がない。やんごとなき事情があるときは、彼女がこ の時間で借りているマンションにレトロな手紙を送っておくしかない。どうしても朝比奈 さんからの連絡待ちになってしまうんだ。 「なんですか、それ?」 『今、キョンくんって東京のアパートですよね? あたしの勘違いならいいんですけど… …今日、五月のゴールデンウィーク明けですよね?』 「そうですね、それで合ってますよ」 ちらりとカレンダーに目を向けて、妙な確認を取ってくる朝比奈さんの言葉を肯定する。 時間旅行を続けていて曜日感覚がおかしくなった、なんてことは、昔の朝比奈さんなら十 分ありえるんだが……今もそうなんだろうか? 『キョンくん、不躾な質問でゴメンだけど……そこに今、涼宮さんいる?』 「え、ハルヒ……ですか?」 なんでそこでハルヒなんだ? 「いませんよ」 『ええええええっ!』 ガラスさえもぶち破りそうな超音波に、オレは咄嗟に携帯から耳を話した。なんなんだ、 いったい? 「どうしたんですか?」 『あ、あの、キョンくん、今日はどこにも行っちゃだめですよ! すぐに連絡しますから、 そこで待っててください!』 「それはいいですけど、」 ちゃんと説明してください、と言わせて貰えずに通話は切られた。 唐突に電話をしてきたかと思えば、意味不明な切り方。まったくもって朝比奈さんらし くない。高校を卒業してからは、唐突な行動が確かに増えていたが、それもすべて過去に オレが体験したことと合わせてみれば納得できる範囲のもの。 けれど今日の電話だけは、あまりにもらしくない。いや、今の朝比奈さんらしいと言え ば、らしい行動か。オレが高校時代に会っていた朝比奈さん(大)と同じような、秘密を 隠している『らしさ』だ。 ──また何か起きたんだな…… と、オレは朧気ながらに考えた。けれど今はもう、オレがしゃしゃり出るようなことも あるまい。ハルヒ中心のドタバタ騒ぎは幕を下ろし、あまつさえオレとハルヒの道は分か れてしまった。今のオレにできることは、昔話を語るくらいさ。 そんなことを薄ぼんやり考えていると、また携帯が鳴った。今度はちゃんとディスプレ イに目を通す。朝比奈さんだ。 「もしもし?」 『今からそっちに、えっと、たぶん古泉くんが行くと思います。合流したら、すぐこっち に来てください』 まるで高校時代のハルヒからの電話みたいだ。定型文の挨拶すらなく、朝比奈さんは電 話口で一気にまくし立てた。 「古泉ですか? なんだってあいつが、」 『あたしは長門さんと一緒にいますから、詳しくは合流してから。キョンくん、待ってま すから、必ず来てくださいっ』 がちゃり、と切れた。もうちょっと甘い話をしませんか、朝比奈さん。 なんて感傷に浸る間もなく、呼び鈴が鳴らされる。このまま布団の中に潜り込んで夢の 世界に旅立とうかとも思ったが、朝比奈さんたっての願いとあればそうもいくまい。 「ご無沙汰してます」 「早かったな」 久しぶりに見る古泉は、学生時代に散々見せていた笑みを潜めていた。せっかくの再会 だ、作り物でも笑みを見せてくれたっていいだろうに。 「笑っていられる状況ならばそうもしますが、今は緊急事態なもので」 「緊急事態だって?」 こいつが緊急事態ということは、近年希にみる巨大な閉鎖空間でも出来たか? そうだ ったら、ここ最近のことを考えれば緊急事態だな。けれど何故、今になってオレを引っ張 り出すんだ。そもそもオレを巻き込む理由なんてあるのか? 「朝比奈さんから何も聞いていませんか? ともかく、時間が惜しいのですぐに行きますよ」 「寝起きなんだよ、顔くらい洗わせてくれ。つか、いったいどこに行くんだ?」 「里帰りです」 言うや否や、古泉はオレの腕を鷲づかみにすると部屋から引っ張り出し、そのままコイ ツの車の中に押し込められた。さすが社長さん、ン千万クラスの高級スポーツカーとは恐 れ入る……って、そんなことはどうでもいい。何なんだ、この強引な展開は? 「オレの都合も考えろよ! 何なんだ……わかるように説明してくれ」 ここがサーキットだとでも言いたげなドライビングで車をかっ飛ばす古泉に、オレは舌 を噛みそうになりながら問い質す。ハンドルを握る古泉は、ちらりとオレを一瞥した。 「あなたの都合を尊重したいのは山々ですが、これでも僕はあなたの友人の一人であると 考えているもので。友人の未来に関わることであれば、放っておけませんよ」 「オレの未来? なんだそりゃ」 「未来について、僕は専門外です。適任者に詳しい話を聞いてください」 それっきり口を閉ざして、車は高速道路を150キロオーバーで突き進む。途中休憩一 切なしで、オレは懐かしの故郷に足を踏み入れた。 あまりの急展開だが、見慣れた景色を眺めると妙に落ち着く。懐かしさと切なさが鳩尾 あたりでぐるぐる回る。東京に出て三年、一度も戻ってきてなかったから、その思いはひ としおだ。 そんな懐郷の念に浸っているを置き去りにして、古泉が運転する車はさらに懐かしい場 所へオレを運んだ。長門のマンションだ。あいつ、まだここに住んでたのか。 昔はオレの役目だったが、今日に限っては古泉が長門の部屋のキーナンバーを入力して 呼び鈴を鳴らす。がちゃり、と音がして部屋主が通話ボタンを押したことを知らせるが、 声は聞こえない。 「長門さん、僕です。彼も連れてきました」 そう告げると、カチッと音がしてエントランスの鍵が外される。通話を終わらせた古泉 は、そのままマンションの中に入っていった。無論、ここまで連れてこられたオレだ、逃 げるわけもなく後に続いた。 見れば思い出すマンションの廊下は、体がしっかり覚えているもので、七階に上がって 長門の部屋前まで足が勝手に動く。玄関の横にある呼び鈴を鳴らすと、鍵を外して部屋主 が現れた。 「……長門か?」 正直、驚いた。朝比奈さんの成長した姿は高校時代に何度も見ているから、驚きはない。 古泉は昔とそれほど変わってないし、野郎がどう変わろうが興味はない。 けれど長門に関しては別だ。宇宙人という特性があるとは言え、女性であることに変わ りない。女性なんてのは、高校生と大学生ではがらっと印象が変わる。少女から女性にな るとでも言うのか、カワイイから綺麗に変わるもんだ。 今の長門は、まさにそれだ。細かい部分で昔のままだが、ナチュラルメイクに控えめな がらも髪をセットして、さらに身長もオレの肩くらいまで伸びて、おまけに女性らしい体 型になっていれば、そりゃ驚きもするさ。まだ成長期真っ只中だったことに、だけどな。 「……なに?」 オレの不躾な視線に気づいたのか、長門が小首をかしげる。 「いや、綺麗になったなと思ってさ」 こんな恥ずかしいセリフがすらっと出てくるのも、オレが大人になった証拠かね。 長門はその言葉を受けて睨み……いや、照れた視線と自己解釈しておこう。何も言わず に身を引いて、オレと古泉を部屋の中に招き入れた。 部屋の中は、昔に比べて生活感ある風景になっていた。それでもオレのアパートに比ら れば少ないが、生活してるなぁ、と思えるくらいには荷物が増えている。 そんな中に、朝比奈さんはいた。 コタツの前で正座して、握りしめた両手を膝の上に置き、差しだされたお茶に手をつけ た風もなく俯いている。どこかで見たことある格好だな、と思えば、オレがバイトしてい る喫茶店の女の子が店長に怒られて落ち込んでいる、そんな格好にそっくりだ。 「あ……キョンくぅ~ん」 オレと古泉に気づいて、朝比奈さんは顔を上げるや否や泣き顔になった。あまりの懐か しさにうれし泣き……って感じじゃないことは断言できる。 「ご、ごめんね、キョンくん。あ、あたし……ひっく……こ、これでも、い、一生懸命が ん、がんば……うぅ……頑張って勉強し、して……うくっ……き、禁則事項も少なく…… ひっく……な、なったんだけど……」 済みません、朝比奈さん。泣き声が混じっていて要領を得ないんですが。 困り果てたオレは頭をかいて、泣きじゃくる朝比奈さんに触れるか触れないかという力 加減で抱きしめた。あいにく古泉に無理矢理アパートから引きずり出されたもんでね、ハ ンカチの持ち合わせはないんだ。かといって、常日頃から持って歩いてるわけじゃないが。 「朝比奈さん、落ち着いてください」 「あ、あの……」 泣きやんだ朝比奈さんは、オレの腕の中で驚いているようだ。高校時代じゃ、とてもこ んな真似はできなかっただろうな、なんてオレでも思う。けれど泣きじゃくる相手には、 それ以上のショックを与えて泣きやませるのが一番なんだ。妹やイトコ連中を相手に、オ レはそれを学んだね。 「大丈夫ですね。それで、何があったんですか?」 やや名残惜しい気もするが、朝比奈さんを離してその目を見つめる。潤んで赤い瞳が魅 力的だが、次に出てきた言葉はオレの溢れる恋慕を根こそぎ奪い取るに十分な威力を秘め ていた。 「はい……あの、時空改変が行われています」 くらりと来たね。 正直、すぐには理解できなかったさ。久しぶりに聞くトンデモ話だ。平凡な日常生活を 送っていたオレに、おまけに文系のオレに、科学的な匂いが漂う話をすぐに理解できる頭 脳の持ち合わせなんてあるわけがない。 そもそも──時空改変だって? それはあれか、オレが高校1年の時に遭遇した、長門 が引き起こしたあれのことか? 「そう」 今から六年前に事を起こした張本人が、オレの問いかけを肯定する……と、今の言い方 はちょっとひどいな。何がひどいかはわからんが、ひどい気がする。ただ、オレも急な話 で混乱してるんだ。そこはわかってくれ。 長門は頷き、説明してくれた。 「今回の改変は劇的な変化はない。緩やかに、誰にも気づかれず行われた。わたしは現在 もいかなる時間帯における自分の異時間同位体との接続コードを凍結している。そうでな ければ気づいたかもしれないが、手遅れ」 「手遅れって……そもそも、何がどう改変されているんだ? オレには何も変わってない ように思うんだが……」 「そうです。だから、今まであたしも気づかなかったんです。でも今日、あたしが知って いる未来とは決定的に違うことが起きているんです」 落ち着きを取り戻した朝比奈さんが、長門の説明の後に続く。未来のことに関しては、 やはりこの人に聞くしかない。 「その違いって、何ですか?」 「今日は、あたしが知る限りでは、キョンくんと涼宮さんが入籍する日なんです」 …………。 いや、うん。正直、今の瞬間に意識がぶっ飛んでたね。マンガ的表現をするならば、口 から魂が抜け出たイラストがピッタリ当てはまるだろうさ。 なんだって? オレとハルヒが入籍? そんなバカな。 そもそも、それが本当の話だったとして、オレとハルヒの入籍が今日じゃないから時空 改変されてます、って考えるのは短絡的じゃないか? 前に朝比奈さんも言ってただろう。 時間の流れはちょっとした歪みなら修正されると。朝比奈さんが知る未来と微妙にズレて いるからって、そこまで話を飛躍させるのはどうなんだ? 「そうです。ちょっとした時間の歪みなら、確かに修正されます。でも……キョンくんと 涼宮さんの結婚は、そんなちょっとした歪みじゃないんです」 「……どういうことです?」 「えっと……それは今のあたしでも禁則事項です。でも、キョンくんと涼宮さんの結婚は とても重要なことなんです。あたしが知る未来のためにも、この世界のためにも」 未来のため、世界のためか。これは……そうだな、今だからこそ言うべきか。言ってお かなくちゃならないだろうな。 「朝比奈さん、正直なことを言いますが、オレはハルヒと結婚することに文句はありませ ん。ただですね、オレもどうせ結婚するなら、自分が惚れ込んで、相手もオレのことを好 きでいてくれる女性と結婚したいんです。誰でもいいってわけじゃありません。朝比奈さ んは、周りから『こいつと結婚しないと世界がおかしなことになるぞ』って言われて、結 婚できますか?」 「それは……」 「それにですね、もしここでオレが『実は朝比奈さんのことが好きです』とか『長門のこ とが好きなんだ』って告白したら、それでも朝比奈さんはオレに『ハルヒと結婚しろ』っ て言うんですか?」 オレの言葉に、朝比奈さんはまた、泣きそうな顔になった。その表情だけで、オレの言 いたかったことを理解してくれたんだと分かる。そう思う。 つまり、オレは世界のため、未来のためっていう大義名分で動くことは、もうできない。 ほかの連中と違って、オレは凡百な人間だ。正義の味方でもなければ、自己犠牲で得た 平和に感動できる純粋な心根の人間でもない。人並みに欲望もあって、人並みに臆病で、 人並みに安定した生活を望む、ただの人間なんだ。電車の中で目の前に年寄りがいれば席 を譲るが、戦争を止めるために平和維持軍に入隊できるヤツじゃない、ってことさ。 「そんな顔しないでください。困らせるつもりじゃないんです。ただ、分かって欲しかっ ただけなんですよ。もう、未来のためとか世界のためとかで自分を犠牲にできるほど、純 粋じゃないんです」 「確かにその通りですね。あなたの意見はもっともですし、何も間違っていませんよ」 そう言って頷き、古泉がオレの意見に賛同してくれた。こいつがそんな風にオレの肩を 持つとは意外だ。 そう思っていたんだが……。 「今の朝比奈さんの発言も、やや的を外していますしね。他のお二人がどのように考えて おられるのかわかりませんが……僕があなたをここへお連れするときの言葉を覚えていま すか?」 おいおい、人の記憶力を疑うような発現だな。たった数時間前の話を忘れるほど、ボケ ちゃいねぇよ。 「ならば安心です。こう考えてください。あなたと涼宮さんの結婚で世界の安定が得られ るのは、ことのついで……おまけみたいなものです。重要なのは、あなたが本来結ばれる べき人との未来が消失していることです。これはあなた自身にとっては人ごとではありま せんし、一大事ではありませんか?」 前口上が長いのは相変わらずか。何が言いたいんだ、古泉。 「友人のバラ色の未来が失われようとしているのです。それを救うのは当然でしょう?」 この野郎……何がバラ色の未来だ。ハルヒとの結婚が本当にバラ色だとでも思っている のか? あの天上天下唯我独尊の団長さまと四六時中顔を付き合わせることになるんだ ぞ。それのどこが幸せだって言うんだ。 「本当にそのようにお考えで?」 ええい、そのなんでも見透かしたような薄ら笑いはやめろ。 「……あのな、長門も言ったじゃないか。仮に、今の言葉がオレのごまかしだとしよう。 でも、もう手遅れなんだろ? 今回の時空改変を起こした張本人は、話を聞く限りハルヒ のようだが、過去に遡ってアイツに修正プログラムを打ち込んでも、もうダメなんだろ?」 「そう」 長門の言うことはいつも端的だ。余計なことを言わず、事実だけを告げる。こいつがダ メだというのなら、何をどうやってもダメなのさ。 「ほらみろ。どっちにしろ、」 「でも」 息巻くオレの出鼻をくじくように、長門は口を閉ざさなかった。 ……でも、だって? 「時空改変が行われたその時間に、楔を打ち込めば修正することは可能」 長門……それは全然ダメな状況じゃないぞ。まだ修正する可能性が残ってるじゃないか。 「ちょっと待て。何をどうしろって言うんだ?」 「今は正しき未来と謝った未来に道が分かれている状態。その分岐は緩やかだが、三年と いう月日を経て決定的な違いをもたらした。ならば道が分かれたその時間において、歪み をもたらした道に進まないよう正しき道へ楔を打ち込めば、三年の月日を経て正しい時間 軸に戻る可能性は高い。ただ──」 長門はそこで言葉を途切れさせて視線を宙に彷徨わせた。 「──道が分かれた時間がいつなのか、それはわたしにもわからない」 口を閉ざし、長門はオレをじっと見つめた。その視線は「あなたなら分かるはず」と言 わんばかりの目つきだ。 確かに思い当たるときはある。おそらく、間違いない。 ──高校卒業のあの日、ハルヒにキスされたその日…… あの日から、オレとハルヒの道は分かれた。オレはそう確信している。もしその日でな かったとしたら、他に思い当たる日はない。もし過去に遡るなら、その日以外にありえない。 そしてもうひとつ、悩まなければならないことがある。 長門は「楔を打ち込む」と言った。ならばその「楔」とは何を指すんだ? このまま過 去に遡ったとして、何をどうすればいいか分からないままでは、何もできないじゃないか。 「キョンくん、その時間に行きましょう」 と、朝比奈さんが悩むオレに向かってそう言った。 「あれこれ考えてちゃダメですっ! あたしたち、今までみんなで協力して何とかやって きたじゃないですか! 行動しなくちゃ、何も始まらないんですっ!」 そう……だな。ああ、確かにそうだ。昔からそうじゃないか。SOS団絡みの出来事は、 いつも訳も分からないまま巻き込まれて、それでもなんとかやってきた。今更あれこれ考 えるのはオレらしくない。 「今になって、ひとつだけわかったことがある」 はぁ~っ、とこれ見よがしにため息を吐いて、オレは目の前の三人を睨み付ける。出来 る限り、渋面を作ったつもりだ。 「SOS団なんておかしな団体に所属していると、どいつもこいつもお人好しになるんだな」 それなのに、朝比奈さんや古泉は言うに及ばず、長門でさえもわずかに微笑んだように見えた。 どさっと、それこそ尾てい骨が砕けるような勢いで地面にへたり込むのは、男二人の役 目。方や女性二人は慣れたもので、けろりとしている。 ここは、いつの日だったか朝比奈さんと歩いた公園の常緑樹の中。今がいつなのかすぐ にはわからないが、長門のマンションの中からこんなところに移動しているとなれば、時 間遡航に成功したのだろう。これがただの瞬間移動だとしても驚異的だがね。 「いやあ……話には聞いていましたが、これほどの衝撃とは思いませんでしたよ」 どうやら古泉もオレと同じ感想を持ったようだ。 時間旅行の目眩。嘔吐寸前までに世界がぐるぐる周り、目を閉じていても光が瞬く感じ は、極悪な代物と断言しても生ぬるい。どうしてこんなのが平気なのか、朝比奈さんにじ っくり聞いてみたいもんだ。 「というか、なんでおまえや長門まで着いてくるんだ? オレと朝比奈さんだけで十分だろ」 「せっかくの機会ですからね。時間旅行というものをやってみたかったんですよ。あなた の邪魔をするつもりはありませんので」 邪魔するとかしないとか、そういう問題じゃないないだろ。そもそも朝比奈さん、いつ からそんな適当になったんですか。 「朝比奈さんを責めるのは酷というものです。僕と長門さんはその辺りで時間を潰してい ますから、お役目を果たしてきてください。よろしいですね、長門さん」 「……わかった」 何がわかったんだ長門。わかるなよ長門。おまえまで古泉みたいに時間旅行を楽しみた かっただけってのか? おいおい、いろいろ変わったな、おまえら。 「それではまた、後ほど」 敬礼のような挙手で挨拶をすると、古泉と長門は人気が途絶えた頃合いを見計らって、 公園の外に姿を消していった。 「いいんですか、あれ……」 「今日は……えっと、特例です」 特例って……朝比奈さんもいろいろ成長したもんだ。昔は禁則に次ぐ禁則で思ったこと も言えず、訳も分からないまま巻き込まれて泣いていたのにな。高校時代の庇護欲をそそ る愛くるしさが懐かしいぜ。いやまぁ、今もそうと言えばそうなんだが。 「今、いつの時代の何時ですか?」 古泉と長門の奇行や、朝比奈さんの成長を見て感慨にふけっている場合じゃない。オレ が時間を聞くと、朝比奈さんは華奢な腕には似合わないゴツい電波時計に目を向けた。 「今はキョンくんたちが卒業した日の、午後2時を過ぎたころです」 その時間、オレは当時何をしていたかな……ええっと、ああそうか、ハルヒと二人で部 室にいて……キスされた時間か? もうちょっと前の時間かな。あのときは時間感覚が麻 痺していたから、よくわからない。 「朝比奈さん、ちょっと質問なんですが」 「はい、なんですか?」 「今回の時空改変は、どのタイミングで修正すればいいんでしょうかね? 前のときは長 門が変えた直後に戻したじゃないですか。今回もそんな感じですか?」 「えっと……前回のときはキョンくんを除いて、世界すべての記憶がその日を堺に塗り替 えられてましたよね? だからあのときは、改変直後でなければダメだったんです。でも 今回は緩やかな変化ですから……ゆっくりするわけにもいきませんけど、考える時間はあ ると思います」 考える時間か……。 「その時間ってどのくらいです?」 「ん~っと……そうですね、リミットは今日一日と思ってください。そうでなければ、あ たしたちが元時間に戻ったときに年齢がおかしなことになっちゃいますよ」 まだ時間がある、とわかっただけでも有り難いですよ。長門が言う「楔」とやらが何な のか、考える時間があるわけだからな。 とは言うものの、今回ばかりはすでにお手上げ状態だ。何しろ前回の時空改変では、最 初こそオロオロしていたが、後になって長門のヒントが出てきた。そのおかげで、オレは 役目を果たせたようなもんだ。 けれど今回は、そのヒントすらない。長門自身もどうすればいいのか分からないままの ようだ。数学者さえ頭を悩ませる難問に、小学生が挑むようこの状況を嘆かずにいられる か。おまけにその正解を見つけ出さなければ、世界は改変されたままってことになる。 「ごめんなさい、キョンくん……」 どうすべきか悩んでいたオレは、口数が少なくなっていた。そんなオレの態度を見て、 何を思ったか、朝比奈さんが頭を下げてくる。 「あたし、自分でも少しは成長できたかなって思ってたの。でも……やっぱりダメですね。 肝心なときに役立たずで」 おいおい、まったくこの人は、いったい何を言い出すんだ? 「それ、本気で言ってます?」 「……え?」 「今回のことに気づいたのも、この時間まで戻ってこられたのも、朝比奈さんのおかげじ ゃないですか。おまけに今は、過去のオレたちを助けてくれているんでしょう? 言葉じ ゃ言い表せられないくらい感謝してますよ。もっと自信をもってください──なんて、オ レに言われても慰めになりませんよね」 「そ、そんなことないですっ! あたし、ずっとキョンくんに迷惑かけっぱなしだったか ら……だから、そう言ってもらえると、すっごく嬉しいです」 真剣そのものの目で、胸の前で両手を握りしめて朝比奈さんはそう言った。 そうそう、泣き顔よりも真剣な顔、真剣な顔よりも笑顔があなたには一番似合いますよ。 ……そういえば。 ハルヒはいつも、どんな顔で笑っていたかな。出会ったころは怒ってばかりだが、SO S団を作ってからはよく笑うようになった。時にふてぶてしく、あるいは生意気そうに。 それでも最後はマグネシウム反応のような眩しいくらいの笑顔を浮かべていたな。 ……何か違和感があるな。なんだろう、この感覚は。完成したはいいけれど本来の絵と 違うジグゾーパズルが出来上がったような気分だ。 何かしっくり来ない。どこかおかしい。これはいつの時代に感じた違和感だ? 「……ああ、そうか」 我知らず、考えが唇を割いて漏れる。 あのときか。あの日の笑顔か。それが今に繋がってるっていうのか? 「どうしたんですか?」 思案に暮れるオレに向かって、朝比奈さんが不思議そうに声を掛けてくる。それでもす ぐには返事をせず、しばし考えていたオレは……やはりその考えしか思い浮かばない。思 い込みかもしれないし、間違いないと断言できる根拠もない。それでも今のオレに与えら れた情報だけでは、それくらいしか解答を導き出せない。 「朝比奈さん、もうハルヒのトンデモ能力は落ち着いているんですよね? 今のオレがあ いつに会うのはアリですか?」 「え……っと、涼宮さんの能力が減退しているのか、それともただ安定しているだけなの かによりますけど……あ、でも、今日の夜に涼宮さんは誰かと会ってますね」 「それがオレですか」 「たぶん……ごめんなさい、この日の涼宮さんの行動は一通り把握しているけれど、今回 の出来事はあたしも初めて体験することだから、確信めいたことは何も言えないの」 「ハルヒの行動がわかるだけでも有り難いですよ。それで、ハルヒが誰かと会っているっ ていうのは、何時頃の話ですか?」 「夜の……えっと、9時ごろですね」 「夜の9時?」 果て……? なにやら身に覚えのある時間だな。 「場所は公立の中学校……涼宮さんが中学時代を過ごした学校の校庭です」 ああ、なるほど。そういうことか。だからオレはまた、巻き込まれているのかね。 公立中学の校庭で夜の9時といえば、七夕の校庭ラクガキ事件の日と同じ場所、同じ時 間じゃないか。ハルヒにとってもうひとつの思い出の場所で待ち合わせする相手といえば、 一人しかいない。オレのことだが、オレじゃないヤツだ。 まだまだ活躍しなきゃならんらしいぞ、ジョン・スミス。 「その時間、ハルヒは自主的に中学まで行くんですか?」 「どうでしょう? 時間の流れがノーマライズされたものであるのなら、涼宮さんが出か けることは規定事項です。ですが、今は異常な時間なわけですから……」 この状況で、危ない橋を渡る賭け事をするほど、オレはギャンブラー気質じゃない。だ ったら素直に呼び出しておいて、憂いを払っておいたほうが無難か。 「朝比奈さん、この時代で今のオレが買い物するってのは大丈夫なんでしょうか?」 「えっと……この時間の経済を大きく左右するような買い物でなければ問題ないですけど、 何を買うんですか?」 「レターセット……かな?」 「え?」 頭の上にクエスチョンマークがふよふよ浮かんでいる朝比奈さんに、オレは肩をすくめ てみせた。 「未来人が過去とコンタクトを取るのは、手紙がお約束なんでしょう?」 色気のない封筒に、味気ない便せんを使って「あの日の校庭にあの日の時間に来られた し。J・S」と素っ気なく書き記した手紙をハルヒの家に投げ込んだオレは、ぽっかり空 いたこの時間をどうしようかと考えていた。 そもそも9時にハルヒがオレと会うということになっているのなら、その時間帯付近に 時間遡航すればよかったんじゃないか。仮にオレが手紙を出すことも規定事項に含まれて いるのなら、その役目は果たしたんだ。余計な時間をここで過ごすより、約束の時間まで 跳躍できないものだろうか。 そう朝比奈さんに提言したのだが、却下された。 「何故です?」 「まだ、古泉くんや長門さんが戻ってきてませんから……」 そういやあの二人、いったいどこをほっつき歩いてるんだ? 勝手に着いてきて、事が 終われば呼べなん……あれ? 呼べって、どうやって連絡を取れと言うんだ? この時間 じゃ携帯なんて使えないだろうし、家に電話するなんてもってのほかだ。 「朝比奈さん、長門や古泉とどうやって連絡取るんですか?」 「え? え~っと、それは……」 何気ない質問のつもりだったのだが、朝比奈さんは言葉を濁して腕時計に目を落とした。 何をそんなに時間を気にしているんだ? オレとハルヒの約束には、まだ5時間くらいは 余裕がある。それとも長門と古泉の二人と時間で待ち合わせでもしてたのか? あるいは、 時間的に気になることが他にあるとでも? 「朝比奈さん、二人がどこにいるか知ってるんですか?」 「あ、あの、別にそれは気にしなくても」 オレは再度、尋ねた。朝比奈さんは、明らかに動揺している。 ……裏があるのか。 何が特例だ。古泉と長門もこの時間帯でやることがあるから、着いてきたんじゃないか。 「あの二人はどこで何をやっているか、知っているんですね?」 「それは……えっと」 なんで口ごもるんだ、朝比奈さん。オレに言えないようなことを、あの二人はコソコソ やってるのか? だとすれば、長門が、というよりも古泉主導での企みか。あの二人の利 害が一致し、あまつさえ朝比奈さんさえも一枚噛んでいる画策。 それは今回の騒ぎのことか? まさか……今回の時空改変が狂言だとでも言い出すんじ ゃないだろうな? だってそうだろう。 オレは高校を卒業してから今日に至るまでの三年間、何かが変だと感じるようなことは 何もなかった。改変されたのか否か、と問われれば「ありえない」と答えるさ。ただ、未 来人たる朝比奈さんがそう言いだし、万能宇宙人の長門が肯定し、無駄に状況だけは把握 している古泉までも乗ってきている。 こいつらを知っているオレだ、そう言われれば信じるしかないじゃないか。もし三人が そろってオレを騙そうというのなら、オレは疑いもなく騙されるさ。 「だ、騙すなんて、そんなこと、」 わかってる。わかってるさ、朝比奈さん。古泉は……まぁ、おいとくとして、朝比奈さ んや長門がオレを騙す真似をするわけがないさ。だからこそ、なんだ。 「わかっているから、本当のことを話してくれって言ってるんです」 しばしの逡巡のあと、ふぅっ、とため息を吐いて、朝比奈さんはどうやら観念したらしい。 「キョンくんには、涼宮さんのことだけを考えていてもらいたかったんです。実は今、」 意を決して朝比奈さんが口を開くのと、それはほぼ同時に起こった。 瞬き一回分の刹那の瞬間に、周囲の景色ががらりと姿を変える。夕闇迫る朱色の空が、 雲一つない青空に変わり、堅いアスファルトの地面が足を取られそうな砂丘に変わる。 視界を奪うほどではないが黄土色の靄が辺りに漂い、平坦な空間がどこまでも続いている。 「ひゃうっ!」 朝比奈さんがオレに飛びついてきたが、オレだって何かに飛びつきたい気分だ。 なんだこれは? なんなんだ、いったい!? 「きょっ、きょきょ、キョンくん、ああの、あれ何ですかぁっ」 オレに縋り付く朝比奈さんが、オレの左手方向を指さして叫んだ。釣られて見れば、ガ キの頃にテレビでみた巨大ロボットのような巨体の、それでいてのっぺりした巨人が、両 手を鞭のようにしならせて暴れている。 まるで《神人》みたいじゃないか……って、ここは閉鎖空間なのか? なんでこんな所 にオレと朝比奈さんは引きずり込まれているんだ? 「こここ、こっち来てますよぉっ」 そんなこと、見ればわかりますって。 オレは朝比奈さんの手を取って、《神人》っぽい巨人に背を向けて走り出した。どこか に行けるわけでもないが、逃げ出したくもなるさ。とは言え、こっちが50メートル走っ たところで、相手は一歩でチャラにしちまう相手。どだい、逃げられるわけがない。 あっという間に距離を詰められ、降り注ぐ光を遮る影がオレと朝比奈さんを覆った。脳 裏に辞世の句が十個くらい浮かんだが、せめて朝比奈さんだけでも守りたい。 そう考えて、朝比奈さんを守るつもりで覆い被さって床に伏せた。そんなことをしても、 相手の質量を考えれば二人そろってぺちゃんこになることは分かっているさ。それでも、 そうしてしまうのは条件反射以外の何ものでもない。 間近で雷が落ちたように、空気が軋む。オレの体は空中に緩やかに放り投げられ……っ て、なんで放り投げられているんだ? どさり、と背中から地面に叩きつけられる。足下が柔らかい砂で助かった。受け身なん て取れるほど、機敏じゃないんだ。 機敏じゃないと言えば朝比奈さんは……と思って視線を巡らせると、地面に叩きつけら れる前にキャッチされてご無事のようだ。 「古泉……」 憎々しげに、あるいは感謝を込めて、オレは朝比奈さんを抱きかかえている微笑みエス パーを睨み付けた。 「言いたいことや聞きたいことは山のようにあるが、とりあえずは朝比奈さんを無事に守 ってくれてありがとう、と言ってやる」 「その言葉を聞いてホッとしました。てっきり、怒られるものだと思っていたので」 「怒るのはこれからだっ! なんだこれは? いったい過去まで来て、おまえと長門は何 をやってんだ! ここがどこで、なんで《神人》っぽいのが暴れているのか説明しろっ!」 怒鳴り散らすオレに、古泉は抱えていた朝比奈さんを下ろして肩をすくめた。 「残念ですが、あまり説明する時間はありません。ここは特殊空間ですから、本来の時空 間と時間の流れが違っていまして。あまりあなたをここに引き留めるわけにもいかないん ですよ」 「オレは説明しろ、と言ったんだ」 「それはここを脱出してから、長門さんに聞いてください」 古泉の体から赤い光が滲み出たかと思うと、その姿を赤光の球体へと変えて飛んでいく。 オレが初めて古泉に連れられて閉鎖空間に入り込んだときと、まったく同じ姿だ。 ってことはだ、あそこで大暴れしている巨人は、やっぱり《神人》ってことなのか? 「こっち」 ぐいっ、と首が絞まるほどの勢いで襟首を引っ張られ、口から「うげっ」っと声が漏れ た途端に、辺り一面が真っ暗になった。 別に締められてオチたわけではない。あの閉鎖空間らしき場所から、どうやら元の世界 に戻っただけのことだ。ただ……どうも入り込んだときからそれほど時間が経過したとも 思えないのに、空は夜の帳で覆われていた。 「時間がない。急いで」 オレの襟首を力任せに引っ張りながら、長門がそんなことを言った。 「ま、待て。急ぐ前にオレがオチる! 掴むなら手を掴んでくれぇっ」 必死の嘆願を聞き入れてくれたのか、長門はようやくオレの襟首から手を離してくれた。 最初から朝比奈さんの手を握ってるのと、同じようにしてくれ。 「急ぐのはいいが、おまえと古泉が何をやっていたのか説明してくれ。さっきの巨人はな んなんだ? あの空間はハルヒが作り出してたのか?」 「違う。我々に対する敵対勢力の残存兵力が、涼宮ハルヒの情報創造能力を流用して作り 出した疑似位相空間模と局地戦用人型兵器」 「敵対勢力?」 それはあれか、高校1年のころからチラホラ現れた、長門の親玉とは別種の情報生命体 やら朝比奈さんとは別種の未来人やら古泉の『機関』と対立してたヤツらのことか? け れどあいつらは……。 「それはあなたが気にすることではない。事後処理はわたしたちそれぞれが行わなければ ならないこと。先ほどの局地的非浸食性異時空間へあなたと朝比奈みくるが引き込まれた のは、わたしと古泉一樹の落ち度。済まない」 ……じゃあ何か、全部すっかり終わったもんだと思ってたのはオレだけで──朝比奈さ んは過去のオレたちを助けてくれているから別としても──長門や古泉は現在進行形で厄 介事を抱え込んでるのか? 「敵対勢力にとって、時空改変が行われ始めているこの時間帯が最後のチャンス。何かし らの接触があることは予測できる範囲」 「今は過去だろう、この時間のおまえや古泉は何をしてるんだ」 「この時間平面に存在するわたしの異時間同位体もそのことを把握しているが、わたしの 役目はあくまでもあなたと涼宮ハルヒの保全。他時間平面からの干渉に関してこの時間平 面に存在するあなたや涼宮ハルヒに敵対的接触が行われない限り、わたしが干渉すること はない」 ……クールというか、融通が利かないというか、いかにも長門らしい。 「どうして、まだ厄介事が続いていたことをオレに教えてくれなかったんだ」 「宇宙生命体の処理や未来の懸念、反社会的勢力への対処は、各々が所属する組織の問題。 あなたを巻き込むべきではないと判断したのは、わたしや朝比奈みくる、古泉一樹それぞ れの結論。あなたはには」 長門はゆっくりと、けれどしっかりオレを指さした。 「涼宮ハルヒのことだけを想ってほしい。それがわたしの……わたしたちの願い」 おまえは……おまえらはホントに……どうしていつも、人のことばかりを先に考えるん だ。そりゃオレには何もできないかもしれないが、もうちょっと頼ってくれたっていいだ ろうが! 「それは違う」 いつもより機敏に首を横に振って、長門はオレの言葉を否定した。 「今ならわかる。涼宮ハルヒは世界を変える力を持ち、あなたは人を変える力がある。三 年前まで、わたしたちはあなたに頼り続けていた。だから今は──」 長門は視線を彷徨わせ、自分の頭の中にある語録の中からもっとも適した一言を選び出 したようだ。 「──恩返し」 恩……恩ときたか。まったく、何言ってやがる。それこそお互い様じゃないか。 今までオレがどれだけ長門に……長門だけじゃない、朝比奈さんや古泉たちに助けられ たことか。オレに人を変える力がある、だって? それこそバカげている。変えたのはオ レじゃない。おまえたちが自分で変わろうと思ったから、変わったんじゃないか! 「ああああああっ!」 突如、朝比奈さんの場違いな叫び声が木霊した。 「な、なんですか突然!?」 「たっ、大変ですっ! 涼宮さんと約束の時間まで、あと30分もないですよぉ~っ」 おいおいおいおい、マジか。時間に余裕があると思っていたのに、何時の間にそんなに時 間が過ぎたんだ? 「疑似位相空間の中は通常空間と時間の流れが異なる」 先に言ってくれ長門。 「急いで、とわたしは言った」 ……ああ、そうだな。そうだった、悪かったよ。さっきまでのいい話が台無しになるか ら、そんな睨まないでくれ。 「と、とと、とにかく急ぎましょ~っ」 言われるまでもない。オレたちはハルヒが待っているであろう、公立中学校を目指して 走り出した。 なんだっていつもいつも、時間ぎりぎりになるのかね? 高校時代の市内パトロールの 時みたいに驚異的な集合時間前行動を取っていたSOS団としては、嘆かわしいことこの 上ない状況じゃないか。オレだって誰かとの待ち合わせのときは、今でも最低でも10分 前には待ち合わせ場所に着くようにしてるってのに。 「……え? あれ、うそ……なんで?」 急いでいたオレたちだったが、急に朝比奈さんが立ち止まって困惑顔を浮かべた。困惑、 というよりも青ざめている。これ以上、どんな厄介事が降りかかってきたっていうんだ。 「あの……あたしたち4人に、元時間への強制退去コードが発令されちゃいました……」 「はぁ?」 勘弁してくれ……いったいどんな厄介事のドミノ倒しだ? そもそも、いったい何の話 だ? いや、言いたいことはわかる。この時間において、オレたち4人はイレギュラーな 存在だ。だからこれ以上引っかき回さずに元の時間に戻れ、と言いたいんだろう。 だが待ってくれ。そうじゃないだろ。オレたちは改変された世界を元に戻すためにこの 時間に来ているんだ。そうじゃなかったんですか、朝比奈さん!? 「そ、そうです! でも、上の……あたしの組織のもっと上の方から、今回の改変は歴史 変化の許容範囲と見る意見もあって……だから、その」 「つまり、あなたと涼宮さんの結婚がもたらす変化より、結婚しない未来の方を選択した、 ということですか」 おまえ、古泉……何時の間に現れやがった。というか、無事だったか。 「空間の断裂がこの近くだったのは幸いですね。手間取りましたが、なんとか弱体化させ ることはできました。あとはこの時間平面の『機関』の役目です。それよりも、困った事 態ですね」 「何がだ?」 「朝比奈さんも単独で動いているわけではなく、我々の『機関』のような仕組みになって るのでしょう。そこで今回の出来事の意見が分かれており、結果、今回の時空改変は歴史 が持つ多様性のひとつ、許容範囲内の変化だったと結論づけたのではないでしょうか?」 「なんだそれは? ずいぶん勝手な話じゃないか。そもそも今回の時空改変はオレとハル ヒが結婚するかしないか、だろ? それはちょっとした歪みとかじゃなくて、未来におけ る決定的な違いを生み出すんじゃなかったのか?」 これじゃまるで、朝比奈さんが所属する組織の上が、オレらの敵対勢力の肩を持つよう なもんじゃないか。おかしくなってる未来をまともな形にするために、オレたちはこうや って過去までやってきて……まとも? ……なら、本来、朝比奈さんが知っている未来と、今こうしておかしくなっているとい う未来の違いってなんだ? オレとハルヒが結婚するかしないかで、未来が無視できない ほどの決定的な違いってなんだ? 朝比奈さんが「禁則事項」と言った、その答えはなん なんだ? 「あなたと、涼宮ハルヒの子供」 答えを言うことができない朝比奈さんに変わって、神託を下す使徒のように長門は告げた。 「確証はない。けれど考えられる選択肢のひとつ」 「どういうことだ?」 「あなたと涼宮ハルヒが結ばれることによって、涼宮ハルヒが有する情報創造能力がどの ように変化するか、あるいは受け継がれるか、それがわかる」 なんだそれは? 「……その考えは『機関』の中にもありました」 どこか言いにくそうに、古泉が長門の言葉を受け継いで話を続ける。 「涼宮さんは世界を創造するという、神の如き力を持っている。けれど体は生身の人間で す。いずれは老衰で、あるいは突発的な事故や病気で不帰の客となる日が必ず訪れます。 そのとき、世界はどうなるのか。何事もなく続くのか、あるいは消滅するのか、もしくは がらりと様変わりをするのか……それとも、力を受け継ぐ神の子が現れるのか」 「それが……ハルヒとオレの子供だとでも? それを言うなら……」 言っていいのか? それを、オレが。 「……何もオレとの子供じゃなくたっていいだろう。ハルヒが産む子供であれば、別にオ レじゃなくたって」 言うべきじゃなかった。口にして後悔した。オレが何を思ったのかは……まぁ、察してくれ。 「朝比奈さん、強制退去コードが発令されたとおっしゃいましたが、具体的にはどうなる のでしょう?」 オレが今、どんな顔をしているのかはわからない。ただ、古泉はオレの意見を無視して 朝比奈さんに話を戻した。 「朝比奈さんは立場上、元時間に戻らなければならないでしょうが、僕たちにまで強制力 がある命令とは思えません。僕たちが勝手に行動すること──そういうことにして、見逃 してはいただけませんか?」 珍しく古泉が悪巧みめいたことを言うが、朝比奈さんは力なく首を横に振った。 「強制退去コードが発令された以上、あたしに拒否権はありません。仮に拒否できたとし ても、あたしたち4人は強制的に元時間へ時間遡航させられます」 「……長門さん、その場合、あなたの力で時間遡航をキャンセルすることはできますか?」 「できなくはない。が、推奨はしない」 長門にしては珍しく、その表情に諦めの色が浮かんでいた。 「朝比奈みくるの所属する組織と敵対することになる」 「しかし……」 「やめとけ、古泉」 気持ちは嬉しいがな、これ以上、オレとハルヒのことで話をこじらせたって仕方がない。 下手すれば、朝比奈さんの立場がマズイものになる。 これがまぁ、運命ってヤツだ。もともとオレとハルヒの道は、高校卒業と同時に分かれ た。普通なら、もうそれっきりさ。けれどオレの場合、もう一度だけ道が交わるチャンス があっただけめっけもンさ。それでも交わることができなかったというのなら、それを運 命といわず、なんと言おうか。 それだけハルヒがオレ……たちと離れることを望んでいたってことだろう。あいつが一 人で進むべき道を選んだというのなら、追いかけるべきじゃない。 「あなたは……それでいいんですか?」 「いいも悪いも、もう何もできることはないだろ。オレだって……」 そうさ。オレだって出来ることがあるのなら、なんとかしたい。けれど時間がない。で きることは何もないじゃないか。諦めたくはないが、諦めざるを得ないじゃないか。 「…………まだ……」 ポツリ、と朝比奈さんが呟いた。 「まだ、です。まだ出来ることはあります。強制退去コードが執行されるまで、まだもう 少しだけど、時間があるはずです。5分後かもしれないし、次の瞬間かもしれないけど、 まだ諦めちゃだめですっ」 「しかしですね……」 「しかしもカカシもありませんっ! キョンくん、諦めるためにこの時間平面に来たんじ ゃないでしょ? 涼宮さんとまた、会いたいんでしょ? なら、諦めないでください! あたし、イヤなんです。ホントのことがウソになっちゃうなんて、そんなの絶対イヤなん ですっ!」 朝比奈さん……。 あああああーっ、くそっ! 何をやってんだオレは!? 歳とって諦めやすくなっちまっ たか? 朝比奈さんにそんな当たり前のことをいわれなくちゃ行動できないような、マヌ ケな男になっちまってたのか? 情けないにも程がある。 「すいません、朝比奈さん。それに、長門も、古泉も。迷惑かけちまうが、勘弁してくれ!」 オレは走り出していた。普通に考えれば間に合うはずもなく、こんなことしたって無駄 で無意味なのはわかっている。 だからどうした。 無駄で無意味のどこが悪い。オレは感じたままに、感じたことをするだけだ。 立ち止まってたまるか。下を向いてどうする。あいつはいつも、くっだらないことをク ソ真面目に前を向いて、一時も立ち止まらずにやりたいことをやってたじゃないか。 思い出せ。長門が世界を改変させたとき、オレは何を考えた? どういう結論を出した? 忘れるわけがない。身の回りに宇宙人やら未来人、超能力者がふらふらしている世界を 肯定し、受け入れ、傍観者から当事者になることを選んだ。涼宮ハルヒという訳の分から ないヤツを中心に、バカ騒ぎしてやろうと決めたんじゃないか。 それを決めたのはオレだ。もう離さねぇぞ、ハルヒ。おまえが拒んだってな、オレのほ うから食らいついてやる。おまえの我が侭にはイヤってほど付き合ってやったがな、オレ と離れたいなんて我が侭だけは、大却下だっ! 「はっ……がぁっ、くそっ……」 もう汗も噴き出しやしねぇ。口の中はカラカラだ。運動不足がここに来てアダになって やがる。足の筋肉は悲鳴を上げて、目もかすみ、音もよく聞こえない。 見慣れた線路沿いの道までたどり着いた。あとはそこの角を曲がればゴールだ。ここで 立ち止まったら、二度と動けない。そんな気分で角を曲がる。 そこでオレは愕然とした。 道がない。真っ暗な闇が、そこにある。なんだコレは? どういうことだ。 後ろを振り返れば、今まで走ってきていた道が、景色が、光の粒子に姿を変えて消えて いる。角砂糖で作られた町並みが、雨に濡れて溶けていくようだ。 まさかこれが……朝比奈さんの言っていた強制退去コードの発現ってやつか? オレは ……間に合わなかったのか? 「くそっ……」 間に合わなかった。ゲームオーバーだ。コンテニューも復活の呪文もありゃしない。未 来を出し抜こうなんて、オレには過ぎた妄言だったってことか。 「認めるか……認めねぇぞ、こんなこと!」 散々走り回って、喉もカラカラで声なんて出ないと思っていたんだが、それでもオレは 叫んでいた。まだ、オレの体は声を出す気力を残していたらしい。 「ハルヒーっ!」 周囲が闇に包まれる。確かにそこにあるのは、立つことだけを許された儚げな小さい足 場だけ。それすらも、今に消え去ろうとしている。 「待ってろ、必ず会いに行くから!」 違うだろ。そうじゃない。言いたいことは、そんなことじゃない。いい加減にしろよオ レ。二十歳を過ぎて一年も経ついい大人が、言いたいこともわからないのか!? 「ハルヒ、オレは……っ!」 視界が回る。耳鳴りがする。誰かの声が聞こえた……気がする。 誰だ? 誰かそこにいるのか? そこにいるのはおまえか、ハルヒ? 手を伸ばす。その方向で合っているのかどうか、わからなくともオレは手を伸ばした。 目を見開いているはずなのに、何も見えない。闇がこれほど怖いと思ったことはなかった。 伸ばした指先に、何かが触れる。触れたような気がした。必死にそれをたぐり寄せよう ともがくが、感覚がない。自分の体なのに、自分のものじゃないみたいだ。 不安ともどかしさで、気が変になりそうだった。 体全身の感覚がなくなる。上下感覚すら消失する。 そしてオレは──何かを手にしたのか、それとも失ったのか──それを確かめることも なく……意識を暗転させた。 ゴンッ! と、額に携帯電話がダイブしてきた衝撃でオレは目を覚ました。最悪な目覚 めに気分も落ち込むってもんだ。おまけに体全体が筋肉痛で痛むし、どうして自分がアパ ートの自分の部屋で寝ていたのかさえ思い出せない。 ──まいったな…… ご丁寧に、強制的に現代に戻されたかと思ったら、自分のアパートか。旅費が浮いて助 かった、なんて感謝するとでも思ってるんじゃないだろうな? オレはついさっきまであったことを、すべてしっかり覚えている。人を引っ張り回すだ け引っ張り回して、こっちが何もできないのをいいことに、無理矢理元の時間に戻された 恨みを忘れてたまるか。 オレに感謝されたいんだったらな、せめてその記憶もしっかり消してくれ。 「くそっ……」 ここまで自分が無力だと思い知らされた日はなかった。泣くべきか叫ぶべきか、それす らもわからない。眠りを妨げた携帯電話を手にとって、八つ当たり気味に投げ捨てようと 思ったそのとき、ふと画面を見れば、おびただしい量の着信履歴があることに気付く。 履歴は、朝比奈さん6割、古泉3割、長門1割ってとこか。留守電にも、各々コメント が入っていた。いちいち紹介するのも面倒臭い。ざっくばらんに紹介すれば、朝比奈さん は謝罪、古泉は慰め、長門は……相変わらず、何が言いたいのかさっぱりだが、まぁ、慰 めてくれているんだろう。 魂の抜け殻になった体は、各々のコメントをただ適当に聞き流していた。 ため息しか出ない。 どんな慰めや謝罪の言葉をもらったところで、誰に当たり散らせばいいってもんでもな い。この結果になったのはハルヒが望んだからであり、オレの力不足のせいでもある。 遠いな、ハルヒ。 おまえがこんな遠くに感じたのは初めてだ。おまえと離れたこの三年間、そんなことを 微塵も思ったことはないし考えたこともないが、今は無性におまえが遠くに感じる。 「……ん」 三人のメッセージを聞きつつ、頭の中ではハルヒのことを考えていたオレは、おそらく 最後に録音されていたであろうメッセージで、ふと現実に引き戻された。 これまで散々録音されていた三人それぞれの声が、そのメッセージで途切れた。何も喋 ってねぇ。留守録に切り替わると同時に切ってやがる。 イタズラ電話か、間違い電話か。 どっちだっていいさ。用があるヤツなら、メッセージのひとつも入れておくだろう。 携帯を投げ捨て、煙草に手を伸ばし、火を点ける。紫煙を燻らせ、テレビを付けると、 朝のワイドショーがやっていた。丁度朝の八時か。 コメンテイターが「ゴールデンウイークが終わって今日から仕事の人も……」などと、 どうでもいい前振りをしている。 だからどうした。そろそろ将来のことを見据えて仕事選びを始めたオレなんて、毎日が 暇つぶしみたいな……なんだって? 今、なんて言った? オレはテレビにかじり付く。ええい、おっさんのドアップなんぞ映さなくていい。今日 が何日なのか教えろ。って、そうか、携帯を見ればいいのか。 放り投げた携帯を拾い上げて、カレンダーを見る。間違いない、疑念が確信に変わった。 今日は、朝比奈さんの電話でたたき起こされてハルヒが起こした時空改変を修正するた めに過去へ旅立ったその日だ。 それが何を意味するのか? 答えはシンプルだ。けれど、その計算式は複雑極まりない。 答えはわかっているが、その説明ができない。 先に答えを出しておこう。 時間がズレしている。 それしかない。それで間違いないし、それ以外にあり得ない。 本来なら……というか、オレの記憶が正しければ、これから古泉に連れられて田舎に戻 り、長門のマンションから三年前の過去に旅立つはずだ。 しかしそれは、もう過ぎたことになっている。 何故それがわかるのか。 決まっている。朝比奈さんや古泉、長門からの留守録メッセージが、事の終わりを告げ ているからだ。この日、オレの記憶では「今日、過去に行って失敗する」という、その規 定事項はすでにクリアされている。 どういうことだ? 何がどうなっている? すべての出来事が1日ズレていることに… …どんな意味があるんだ? そのことを説明できるのは……あいつしかいない。 オレはすぐに電話をかけた。コールを待つまでもなく、すぐに繋がる。電話の前で待機 してたんじゃないかと思える速さだ。 「すまん長門、オレだ。ちょっと混乱してるんだが……」 『わかっている』 説明が短く済んで助かる。こいつにも、すべてわかっているんだな。それとも、この存 在しない一日をくれたのは、おまえか? 『わたしは何もしていない。今日は、すべての人々にとって当たり前の一日。昨日という 過去が今日という今になった、平穏な日常。あなたにとっても、そう』 当たり前の一日だって? 今のオレにとっちゃ、奇妙で非日常的な一日でしかないぞ。 『違う』 長門はオレの言葉を否定する。 『今日はあなたが知っている平穏な一日。あなたが本来存在する、今の時間。誰にも邪魔 はできない。わたしがさせない。だから──』 長門は同じような言葉を繰り返し、しばし口を閉ざしたかと思うと、最後に一言だけ付 け加えた。 『──待っている』 がちゃり、と通話は切られた。長門から受話器を置いたのだろう。もうそれ以上、話す ことはないと言いたげだ。 ──いや、違うな。話すことがないんじゃない。話せる言葉がないんだ。 あれが長門の精一杯だ。何かしらの制限を受けているのか、それとも適切な言葉が思い 浮かばなかったのか……どちらにしろ、長門はオレに答えを伝えている。 オレが存在する時間。当たり前の日常。そして、存在しないはずの一日。 大丈夫だ、長門。おまえは本当に頼りになるヤツだよ。おまえのメッセージはいつもあ やふやだが、伝えたいことはしっかり伝えてくれることを、オレは知っている。そしてち ょっと考えれば、すぐにわかる答えばかりだったよな。 オレはシャワーを浴びてから身支度を調え、乏しい財布の中身を見てため息を吐いてか ら、外に出る。 今日が昨日から続く当たり前の日常だと言うのなら──行くべき場所は、一カ所しかない。 小春日和の天気とは言え、夜になるとまだまだ寒くなる。筋肉痛プラス新幹線移動のひ どい仕打ちでへばっているオレの体は、ゆるゆると続く路線脇の道を歩くだけでも悲鳴を 上げそうだった。 時折過ぎていく電車は、ドップラー効果を残して消えていく。次第に人気の失せていく 道に、北高のセーラー服姿の似合う朝比奈さんを背負って歩いた思い出が蘇る。 過去を懐かしむことができるのは、大人の特権か。 昔を思い出してため息を吐くなんて、昔は年寄りじみて自分はそうなりたくないと思っ ていたが、逆に今は振り替える思い出があることを誇りに思う。 その誇りも、ただ日々を積み重ねてきただけで培われるものじゃない。自分から前に出 て行動しようと思ったからこそ、作り出すことのできた思い出だ。 「おい」 おまえの思い出だってそうだろ? オレなんかじゃ比べものにならないバイタリティ で、いつもオレの手を引っ張って良くも悪くも行動を起こしてたよな? そこの──鉄格 子をよじ登ろうとしているお姉さん。 「なによっ」 そいつはポニーテールの髪を揺らし、貫くような視線をオレに向けた。 既視感を覚える。 三年か。そういえば前も三年の差があったな。これはあのときの再現なのか……なら、 次に出てくるセリフもわかってる。 「なに、あんた? 変態? 誘拐犯? 怪しいわね」 こういうのも、以心伝心というのかね? 嬉しいと思うべきか、嘆かわしいと感じるべ きか、答えは保留にさせてくれ。 「おまえこそ何をやってるんだ?」 「決まってるじゃない、不法侵入よ」 そう言って、二十歳も超えて立派な成人になったってぇのに、鉄扉の内側に飛び降りて、 閂を固定していた南京錠をはずした。その鍵、まだ持ってたのか。 鉄扉をスライドさせて6年前のように──こいつにしてみれば、もう9年も前の話か──手 招きをして、自分はさっさとグラウンドに歩いていった。 これでオレも不法侵入の共犯者か。 肩をすくめて後に続くと、そいつは満点の星空の下、グラウンドの真ん中で空を見上げ ていた。七夕と違うのは、この空の明るさか。この辺りも都会になったと思っていたが、 東京に比べると星の数が段違いだ。 「ねぇ、宇宙人っていると思う?」 空を見上げたまま、そう聞いてきた。 「いるんじゃねぇの?」 「じゃあ、未来人は?」 「いてもおかしくないな」 「超能力者は?」 「そんなもん、そこいらにゴロゴロしてるさ」 「ふーん」 気のない返事をして、空を見上げていた視線を足下に移す。吹き抜ける風が、束ねた髪 を凪いで駆け抜ける。その表情は、笑顔とはほど遠い。 想起する時間はここまででいいだろ? 「悪かったよ」 オレはその姿に謝罪した。 これでも急いで来たつもりなんだ。あっちこっち寄り道して、長門からヒントをもらって、よ うやく今日のこの日、この瞬間にたどり着くことができた。 オレにとっての日常。当たり前の平穏。それは、宇宙人や未来人、超能力者と訳の分か らん事態に巻き込まれて、その中心にいる唯我独尊の団長さまを心配する一日。 そして、ズレた今日が過去になった今という現実。存在しない一日という奇跡を残して おいてくれたのは──おまえだよな、涼宮ハルヒ。 ようやく、おまえを見つけることができたよ。 「三年も待たせて、悪かった」 「まったくね。ま、あんたの遅刻癖はいつものことだけどさ」 怒るでも呆れるでもなく、ハルヒはそう言った。どこか遠くを見ているような、けれど その目はオレを見ているのではなく、違う何かを見ている。 「この三年間、どうだった?」 「別に。どーってことない毎日だったわ。そこそこ楽しくて、まぁまぁつまんなくて…… そういうあんたはどうなのよ」 「あり得ないことが連続の、非日常だったよ」 それは揶揄でも誇張でもない、事実あり得ない日々の連続だったさ。毎日決まった時間 に目を覚まして大学に通い、その後バイトに行って疲れて帰ってきて寝る。 あり得ないだろ? 高校時代のオレの日常からは、かけ離れた生活じゃないか。近くに 宇宙人も未来人も超能力者も──ハルヒすらいない日々なんだぜ。 そんな世間一般の平凡な生活を送るハメになったのも、おまえがオレを見捨てようとし たからなんだ。分かってるのかよ? 「なんでオレたちから離れようと思ったんだ?」 「……別にそんなこと、思ってない」 はぁ~っ、とオレはため息を吐く。 そうだな、おまえはオレたちから離れようなんて微塵も思っちゃいなかっただろうよ。 ただ、今のはオレの聞き方が悪かっただけだな。訂正しよう。 「なんでオレから離れようと思った」 オレはそこまで鈍感じゃないんだ。おまえは確かに長門や朝比奈さん、古泉と離れたい とは思っていなかっただろうが、オレとはどうだ? 距離を置こうとしてたじゃないか。 そりゃないぜハルヒ。オレを巻き込んだのはおまえの方だってのに、なのに見捨てるな んて酷すぎるじゃないか。 「あたしが……あたしであるために……かな?」 ハルヒは淡々とそう告げた。 意味わかんねぇよ。おまえはいつもおまえで、そのままだったじゃないか。オレが側に いてもいなくても涼宮ハルヒだったじゃないか。だったら、オレが側にいることを許して くれてもいいじゃないか。 「違うわよ。あたしは、あんたがいたから『あたし』だったの」 そう断言した。断言してから、一瞬迷うように視線を泳がせて、言葉を続ける。 「中学の時はずっと一人で好き放題やってて、周りから孤立してた。高校でも、そうだと 思った。けど、あんたがいてくれた。あんたは嫌々だったかもしれないけど、それでも引 っ張るあたしに『やれやれ』って顔しながら、それでも着いてきてくれて……それが嬉し かった。あんたがいたから、あたしは一人じゃないって思えたし、笑っていることもでき た。でも」 ハルヒは、心の中の澱んだものを一緒に吐き出すかのように吐息を漏らした。 「もし、あんたがいなかったらあたしはどうなってたと思う?」 貫くようなハルヒの視線。その視線には、何の感情も込められていなかった。喜びも悲 しみも、怒りも哀れみもない。いや、もしかするとすべての感情がごちゃ混ぜになってい るからこそ、オレにはわからなかっただけかもしれない。 「そして気づいちゃった。あんたがあたしを守ってくれて、笑うことを許してくれて、支 えてくれてたんだって。そんなあんたがいなくなたら……あたしはどうなるの? あたし を生かしてくれていたあんたがいなくなったら……あたしはあたしじゃなくなるの? そ んなことないって思った。思いたかった。だから」 それが、オレから離れた理由? それを本気で言ってるのか、ハルヒ。おまえはそれで いいかもしれないが、ならオレの気持ちはどうなる? 自分勝手も過ぎるってもんじゃないか。 「あたしが何も知らないとでも思ってんの? あんた、いっつも額にしわ寄せてさ、すっ ごく大変で困ったこと抱えてますって顔してたじゃない」 オレ、そんな顔してたのか。確かに毎日そんな気分だったが、自分じゃまったく気づい てなかった。そうだな、ハルヒは勘の鋭いヤツだから、気づかれていてもおかしくはない。 「あたし、あんたの力になりたかった。あたしに何かできることがあるのかわからないけ ど、それでも力になりたかった。なのにあんた、何も話してくれなかったじゃない。手を 差し伸べることさえ許してくれなかった」 「それは……違う。オレは、」 「あんたが抱え込んでた不安って、あたしのことなんでしょ?」 オレは、何も言えなかった。オレが抱え込んでいた懸案事項は、確かにハルヒのこと。 それが間違っていないからこそ、何も言えなかった。 「あたし、あんたの重荷になんてなりたくない」 揺るがない意思。挑むような言葉。こいつの頑固さは今に始まったことじゃないし、思 い込みの激しさも並じゃない。一度口にした言葉が覆ることもない。 それが真実の言葉なら。 「ウソはやめろ」 今の言葉のすべてがウソだとは言わない。ハルヒの偽らざる本心であることもわかって いる。けれど、その土台となる思いがウソなら、それは見かけ倒しの本心だ。根本にある 思いを偽っている限り、オレが簡単に騙されると思うな。 こいつは三年前の高校卒業のときに、オレに本心を見せていた。告白したことや、キス してきたことじゃない。すべて吹っ切ったように見せた笑顔でもない。 最後の言葉だ。 あれが、おまえの偽らざる本心じゃないか。 「覚えているか? おまえ、オレに『じゃあね』って言ったんだ。『さよなら』じゃなく て『じゃあね』って。何もかも吹っ切ったように見せて、告白してキスまでして、それで も最後の最後でおまえは『さよなら』が言えなかったんだ」 だから、今がある。この日、この場所で出会うことができた。 「ハルヒ」 オレはハルヒの手を取って、抱き寄せた。 いつもこいつの方から手を差し伸べていたけれど、オレはいつも振り払っていたのかな。 悪かったよ、そんなつもりはなかったんだ。それでも今日だけは、今だけは、オレの方か ら差し伸べる手を振り払わないでくれ。 「おまえ、卒業のときに『オレの気持ちなんてどうでもいい』とか言ってたな。ひどいじ ゃないか。自分だけ言いたいこと言って、オレには何も言わせてくれないのか」 「……なによ」 「オレは、おまえと離れたいなんて考えたことは一度もない」 「…………」 そうさ。オレはそんなことを本気で考えたことなんて、一度もないんだ。 間違えるな。ハルヒに辛い思いをさせていたのはオレなんだ。意識的にしろ、無意識的 にしろ、傷つけていたのはオレのほうだ。 そして、それを気づかせてくれたのもハルヒだ。 それも忘れるな。ハルヒがオレと出会って変わったって言うのなら、オレもハルヒのお かげで変わることができた。おまえが隣にいることが、オレにとっての日常であたりまえ なんだ。もうこれ以上、無意味でつまらん非日常なんて送りたくはない。 だから、言わせてくれ。 「おまえが好きだ」 「……そんなの……とっくにわかってたわよ、このバカっ!」 絞り出すような声。微かに肩が震える。それでもコイツのことだ、泣いちゃいないだろ う。泣きじゃくるハルヒなんて、想像もできやしない。 「そうか、わかってたか」 今更だが──オレにも三年って時間が必要だったんだよ。そのくらい、察してくれ。 「三年じゃないわ」 ハルヒはそう言うと、ポケットから色あせた便せんを取り出した。ああ、すっかり忘れてた。 「あたしにとっては、中学から今日までの、九年越しの思いよ」 「そりゃまた……気の長い話だな」 「待たせたのはあんたでしょ」 「いや待て。それはジョン・スミスだろ? オレじゃない」 「あんたがジョン・スミスでしょ?」 「いや……まあ」 「それとも、キョンって呼ぶべき?」 こいつの意地の悪さは承知しているが、ここまでとは想定外だ。 「こんな時くらい、ちゃんと本名で呼んでくれ」 「本名……ねぇ」 ハルヒは──本当に久しぶりに──白鳥座α星の輝きのごとき笑顔を浮かべ、底意地が 悪く口元を釣り上げてから「あんたの本名なんて忘れちゃったわ」と言って……オレの反 論なんぞ受け付けないとばかりに唇を重ねてきた。 それは冗談だよな? まさか本当にオレの本名を忘れてるわけじゃないよな? もし忘 れてるってんなら……まぁ、いいか。 それでごまかされるのがオレらしい役どころだろ。 エ ピ ロ ー グ 後日談を語るほど、まだ日は経っていない。語るべきことは何もなく、あとは口を閉ざ すべきかもしれないが、一言だけ付け加えるのが筋というものか。 あの存在しない一日が朝比奈さんが言うところの「オレとハルヒが入籍する日」らしい が、だからと言って勢い余って役所に駆け込むほど、オレもハルヒもテンションは高くな い。いやまぁ、ハルヒはそんな気満々っぽかったが、オレは東京で大学に通い、ハルヒは 地元の大学で考古学の勉強に精を出しているわけだし、距離は相変わらず離れているが、 それも大学を卒業するまでの話だから、ということで引き留めた。卒業したら……さて、 どうなるのかね? 朝比奈さんの真似をして「禁則事項」とでも言っておこうか。 そんな朝比奈さんは、この間の一件のせいもあってか、もっと立場が上の人間になろう と努力しているようだ。あなたなら成りたい人になれますよ。 厄介なのは古泉だな。事の顛末を知ったあいつは、肩をすくめて「まだ僕の副業は続き そうですね」などとほざいた。何がどう続くのか問いつめたいところだが、ま、その笑み が作り物っぽくなかったから許してやるが。 事が終わって一番苦労しているのは長門かもしれない。なにしろあいつはハルヒと同じ 大学だ。この前、電話で報告したときなんぞ「知ってる」とすでに把握済みの上に「涼宮 ハルヒに聞いた」と続け、最後に──これはオレの気のせいかも知れないが──ため息を 吐いたような気がした。 それがオレの気のせいならいいが……ハルヒ、おまえはオレがいないところで長門に何 を吹き込んだんだ。一万五千四百九十八回くらい同じ夏を繰り返してようやく、つまらな さそうにする長門に、ごく普通の日常会話で呆れを感じさせる話をしつこいくらい繰り返 したのか? ……考えるのはやめておこう。むしろこれから考えるのは、東京に遊びにくるハルヒを 迎えに行ったその後だ。今回ばかりは遅刻するわけにもいかない。 携帯を手に取り、メールを確認すると「到着10分前には待ってること。遅れたら罰金 だからね!」と着信があった。 わかってるよ。散々待たせたんだからな、今回ばかりは遅れるわけにはいかない。 遅れるといえば、何故ハルヒが五月のゴールデンウィーク明けまで待っていてくれたの か後になって分かった。 過去においてオレが、というかジョン・スミス名義で投げ込んだ手紙は、高校卒業の三 月のこと。それから二ヶ月も過ぎていたのに、あいつは存在しない一日を作ってまでオレ を待っていたのには、ちゃんと理由があるんだが……その理由が意味不明だな。 ジョン・スミスと会った七夕でも、高校を卒業してオレと決別しようとした日でもなく、 あいつが選んだその日が──オレと普通に会話を始めた日だなんて、わかるわけないだろ。 さて、そろそろハルヒがやってくる。驚いたことに、あいつのほうから宇宙人や未来人、 超能力者についてオレを問い質したりしてこないんだが……話をしてやるべきかな? そ れとも、あいつが持ち込む厄介事に巻き込まれることを懸念するべきか。 ま、どっちでもいいさ。 それが、オレが散々苦労して取り戻したごく当たり前の日常や──ハルヒの笑顔につな がるならね。 〆
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1034.html
涼宮ハルヒの戦場 その1 涼宮ハルヒの戦場 その2 涼宮ハルヒの戦場 その3 涼宮ハルヒの戦場 その4 涼宮ハルヒの戦場 その5 涼宮ハルヒの戦場 その6 涼宮ハルヒの戦場 エピローグ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2984.html
●序 あたしはいつだって退屈していた。 クソみたいな学校と家の往復、腐って潰れて、枯れたような乾いた生活。繰り返す現実。 SOS団も(自分で作っといて何だけど)最近微妙。パターン化される日常に何を見る? どっちにせよ終わってる、そう気づいたら走っていた。どこに向かう? 知ったこっちゃない。 あたしの脳内広辞苑を全力で捲ったけど、「逃亡」って言葉しか見当たらなかった。 うん、じゃあそれで。ああ、そうそう。あんたも来るのよ? ねえキョン。 涼宮ハルヒの逃亡 ●第一部 時間ってのはどうしたって非情なもんで、黙ってても進んでても同じだけ経つ――それならできる限り遠くへ行こう。 それがハルヒの弁だった。俺はあくびが出た。 「真面目に聞きなさい! いい? 不思議なことを見つけるまでどこにも帰らない!」 どこへも? 家にも、学校にもか。親御さんが心配するんじゃなかろうか。大体、それを何で俺にわざわざ伝えるんだ。 今ハルヒは俺の家にいる。日曜の午後、吸い込まれるような眠気が俺を誘っていた。よし寝るぞと決意した瞬間にハルヒは俺の部屋のドアをぶち破っていた。 「わかってないわね、あんたも行くのよ! じゃなきゃわざわざ来たりしないわ!」 俺も? おい、俺は退屈してないぞ。たった今だって、お前みたいな不思議な思考の仕組みをした奴に出会っている。調査終了ではなかろうか―― 「いいから聞きなさい! あんたはSOS団結成のきっかけなのよ? いわば創立メンバーじゃない。そんなあんたが来なくて誰が行くっていうのよ?」 現実的ではなかった。おそらくあてのない旅に出る、といった感じなのだろう。だが旅費もなければ足もない。加えて俺には意欲がない。 お前が一人で行けば良いだろう。頼むから俺に面倒を持ち込むのは勘弁してくれ。俺が今欲しいのは睡眠時間であって、厄介事じゃないんだ。おやすみ。 「寝るな! 大体今は夏休みよ? 行くところもないでしょ? じゃあ来なさい!」 確かに、今年は旅行の予定もない。家の都合で帰省もしない。つまり暇だ。だが、暇というのは必ずしも退屈とは結びつかない。 「そういうわけで無理だ、ハルヒ。大体計画もないだろう?」 「計画ならちゃんと考えてあるわよ! 見なさいこれを!」 取り出したるはA4サイズのノートだった。表紙にはやたら大きく、乱暴な筆致で「逃亡計画」と書かれていた……逃亡? 「そう、逃亡。日ごろのしがらみや、退屈で平凡で飽き飽きするありふれたつまらない日常からの逃亡! ゴールはあたしが満足したらね」 お前の日常はよっぽど終わってるんだな。ところで、お前が満足しない限り終わらないというのはどうか。 「でも、ちゃんと計画はしてあるわ。まずヒッチハイクをします」 一行目から無計画さが漂ってるぞ! ヒッチハイクなんて今時、しかも日本じゃ無理だ。 「うるさい!成功するの! それで、どっか適当なところで下ろしてもらいます。そして不思議を探します」 はぁ……考えが突飛すぎるなぁ。それで? 「終わりよ。悪い?」 お前なあ。そもそも……いや、何も言うまい。言ったら負けだ。 というか、詳しい計画について反論したら計画そのものは認めてる形になるからな。 「だめだ。危ない。無計画だし、帰ってこれるのかもわからん。金もない」 「あんたは本当に何もわかっちゃいないわね……世の中お金じゃないのよ」 「あって困ることはないだろ」 「なくて困ることもないわ」 それはある! この前もコンビニで……いや、それはいい。古傷が痛む。 「まあ、どうしても必要ならクレジットカードがあるから」 「何!? お前……金持ちか?」 「親はね。あたしはそうでもないけど。でもまあ、カード持たせるぐらいだから割とそうかもね」 「……」 ふとドアが開き、母さんが入ってきた。 「あら、いらっしゃい涼宮さん」 「どうもお邪魔してます、おば様」 気色悪いぞ。普通にしろ……ぐわぁっ!? ハルヒの肘が俺の腹をえぐった。く……重いの持ってやがる……! 「実はおば様、今度キョン君と旅行に行くんです。宜しいでしょうか……?」 「あらあら、いいわね。ぜひ連れてってやって。この子ったら、家でごろごろしてばっかりでねぇ……」 「ありがとうございます、おば様。明日から出発するのですが、キョン君に用意をさせてくださいね」 「ちょ、ちょっと待て……ぐふうっ」 もう一発。鳩尾はよせ……! 「あら、急なのね。わかった、用意させるわ。ほらあんた、ぼさっとしてないで」 「ちょっと母さん……」 「では私これで失礼いたしますわ、御機嫌よう」 「待てハルヒ……!」 「ほら何やってるの、バッグ出しなさいバッグ」 母さん! ちくしょう、親公認で俺はあいつの気まぐれにつきあわにゃいかんのか! ああ神様助けて――おっと、神様はあいつだったか。くそ、八方塞りだ! 俺は満足に祈ることすらできないのか? 俺の夏を返せ!
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/813.html
ハルヒ「いやっほー!!!みくるちゃん、行くわよー!」 みくる「あ、はーい」 古泉「この暑さだと言うのに元気ですね、涼宮さんは」 キョン「お前は泳がないのか?」 古泉「自分はちょっと準備しなければいけないので失礼」 古泉は微笑みながら海の家に向かって歩き出した 俺はビーチパラソルの下で本を読んでいる長門を見た つーか、わざわざ海まで来て読書なんだ? まぁ、海に来たからって泳がないと妖怪・わかめ野郎に襲われるって訳じゃないんだし・・・ 長門「・・・・・」 キョン「泳がないのか?」 長門「・・・・・あとで」 キョン「そうか・・・俺もそろそろ行くか」 俺は海に向かって歩き出した と、急な話だが我がSOS団は海に来たのである 話は3日前になる …………… ………… ……… …… … ハルヒ「急だけど3日後に海に行くわよ!」 いつもの喫茶店でハルヒは言った 今日はパトロールと緊急ミーティングの為、全員喫茶店にいるのだ ハルヒは本当に急なことを言い出すから困る 俺は自然に溜息をついた 古泉はアメリカ人みたいなお手上げのポーズをしている 朝比奈さんは目が点になっている 長門は・・・いつもどうりだな 誰もハルヒに質問しないから俺は仕方がなく聞いた キョン「何故だ?」 ハルヒ「特に理由なんて無いわよ」 キョン「海なら行っただろ?あの孤島で泳いだりしたじゃないか」 ハルヒ「あら、海に2回行ったらいけないって法律でもあるわけ?」 確かに、そんな法律なんてない もし、あったとしたら日本の偉い人はなにやってんだと思う ハルヒは本当に理由など無く、SOS団で海に行きたいだけなのだ キョン「まて、皆の予定とかあるだろ?」 古泉「その日なら僕は空いていますよ」 みくる「あ、あの~、私も大丈夫ですよ」 長門「・・・・・コクリ」 ハルヒ「決定!3日後に行くわよ!」 ちょっと待て、俺の事情とかは無視か? ハルヒ「どうせ暇でしょ?」 まぁ、その日は何もすることが無いので暇だ ハルヒ「車は従兄弟のおじさんが出してくれるからそこらへんは大丈夫よ!」 みくる「も、もし良かったら、お弁当でも作ってきましょうか?」 ハルヒ「さっすがみくるちゃん!気が利くね!」 朝比奈さんがお弁当を作ってくれるなんてこんなレアなイベントは無いぞ 古泉「僕はビーチパラソルとか色々持ってきましょう」 長門「・・・・・ビニールシート」 ハルヒ「うんうん、流石SOS団ね!」 海に行くことが決定し、緊急ミーティングは終った そして、いつものくじ引きをしてパトロール 赤い印が付いている爪楊枝を引いたのは 俺、古泉、長門 そして無印の爪楊枝を引いたのは ハルヒ、朝比奈さんだ キョン「お前の仕業じゃないのか?」 古泉「今回は僕の仕業じゃないですよ ただ単に皆で海に行きたいだけじゃないですか?」 なんだ、てっきり機関のヤツが協力しているのかと思った 古泉「最近では閉鎖空間の数も減りましたし、そんな事をする必要が無いのですよ」 古泉は微笑みながら言った 結局、何も不思議なことが無いままパトロールは終わった ハルヒ「今日は解散!集合時間とかはメールでするからね」 古泉「じゃ、これで」 みくる「さようなら~」 長門「・・・・・フリフリ」(手を振っている) 俺は自転車置き場に行き、家に帰った 帰り道に妹にバレないようするにはどうすればいいのかと考えていた ―――そして3日後――― ハルヒ「遅いじゃない!もう9時15分よ!」 集合時間の9時30分には間に合ってるからいいじゃないか てか、なんで皆こんなに早いのか? もしかして、メールで早めに来るように連絡しあっているのか?・・・まさかな ハルヒ「キョン!海の家で皆にジュース奢りなさいよ」 キョン「わかったよ」 いつもの事だからなれた・・・ってなれていいのか? 自問自答しならがハルヒの従兄弟のおじさんの車に乗った …………… ………… ……… …… … そして今に至るのだ ハルヒ「ちょっとキョン!遅いじゃない!」 ハルヒと朝比奈さんはビーチボールで遊んでいた みくる「はぁい、キョン君」 ポーンッと朝比奈さんからのパス・・・ハルヒが居なければ周りから見るとカップルに見えてるだろうに とボールを取ろうとした瞬間 ハルヒ「隙あり!」 キョン「うぉあっ」 ザッバーン あれだ、海に行ったらお約束と言ってもいいのか? キョン「な、何しやがるっ!」 ハルヒ「隙を見せたあんたが悪いのよ!」 技名は知らんがハルヒは急に俺を投げたのだ おかげで海水飲んじまったじゃねぇか 俺とハルヒが言い争っている間に朝比奈さんが みくる「あ、あれって・・・」 キョン「・・・・・ん?」 俺は目を細め、朝比奈さんが見ている方向に目をやった まぁ、アレだ、まさか本当にこんな状況があるなんて考えもしなかった ハルヒ「さ、サメよ!!!」 ジョーズだか何だけ知らないがサメ注意報など聞いていないぞ 俺と朝比奈さんとハルヒは猛ダッシュで逃げようとしたその時 みくる「あうぅ~」(ピシッ) どうやら足を攣ったらしい キョン「あ、朝比奈さん!!!」 みくる「ふ、ふぇえ~ん」 誰もがダメだと思ったその時 ザッバーン 古泉「あれ?驚きました?」 サメの正体は古泉だったのだ 古泉「まさか、こんなに驚くとは思いませんでしたよ」 サメに変装・・・とは言っても背びれとか着けてるだけなんだけどな ハルヒ「ちょ・・・古泉君!?び、ビックリしたじゃない!」 みくる「もう・・・ヒック・・・ダメかと思いました・・・ヒック」 キョン「大丈夫ですか?」 と、俺はすぐに朝比奈さんに駆け寄った 古泉め、朝比奈さんを泣かした代償は大きいぞ ハルヒ「古泉君!バツとして皆に焼きトウモロコシ奢りなさいよ!」 古泉「そこらへんは覚悟していましたよ」 そこらへんも計算していたんだな ハルヒ「ん・・・そろそろお昼の時間ね」 なんで分かるのかは置いといて・・・いいのか? 俺達は長門が居るビーチパラソルに戻り、朝比奈さんが作った弁当を食べる事にした みくる「あんまり自信ないですけど・・・」 いやいや、何言ってるんですか 例え、塩と片栗粉を間違えたオニギリでも美味しいに決まっていますよ ハルヒ「いっただっきまーす」 キョン「いただきます!」 長門「・・・・・いただきます」 みくる(ドキドキ) 俺は可愛らしいタコさんウィンナーを食べた 見た目は普通だが味は格別 フランス人が食べたらきっと腰を抜かすだろうと思うぐらいに美味い、美味すぎる キョン「とても美味しいですよ」 みくる「キョン君、ありがとう」 朝比奈さんは見るものすべてを悩殺する位の笑顔で俺に言った 死ぬ前に食べたい物は? と聞かれたら即答で答えるね 朝比奈さんが作った弁当だと しばらくして、古泉が焼きトウモロコシを持って来た 古泉「あ、ズルイですよ 先に食べるなんて」 みくる「ご苦労様です、お茶飲みますか?」 古泉「ありがとうございます」 憎い、憎いぜ古泉・・・ ハルヒ「本当に美味しいわよ、みくるちゃん」 みくる「ふふ・・・ありがとう」 長門「・・・・・」 こいつは無表情でパクパクと食べている・・・こいつには味覚とかあるのかと考えてみたがやっぱりやめる 楽しい会話もしながら俺達は昼飯を食べた ハルヒ「さ、ジャンケンよ!負けた人がアイス買ってきてね」 みくる「ま、負けませんよ~」 古泉「じゃ、僕はグーを出しますね」 長門「・・・・・コクリ」 キョン(嫌な予感がするぜ・・・) ハルヒ「じゃーんっけーん」 全員「ホイッ!」 ……… …… … 結果は俺の負け・・・まぁ、予測していたがな 俺は海の家に向かって歩いていると後ろから ハルヒ「ちょっと待ちなさいよ」 ハルヒが小走りで来た 何故だ? ハルヒ「あんたが何味を選んでくるのかが心配だったのよ」 おいおい、俺のセンスが悪いみたいな言い方だな 少しばかり歩いて、海の家に到着 ハルヒ「おじさーん、オレンジ3つとミルク2つね」 おじさん「まいど! おや、お二人お似合いだね」(ニヤニヤ) 冗談でもやめてくれ・・・と思いたいのだが、何故か満更でもなかった ハルヒ「何ニヤニヤしてんのよ」 キョン「そう言うお前も顔真っ赤だぞ?」 ハルヒ「ち、違うわよ! ひ、日焼けよ、そう、日焼けよ!」 変に強調すると逆に怪しいぞ ハルヒ「さ、戻るわよ」 ハルヒはアイスを受け取り先に歩いた なんだ、コレがツンデレってヤツなのか? キョン「お、おい ちょっと待てよ」 俺が行こうとした瞬間 おじさん「ま、頑張るんだよ」(ニヤニヤ) 俺は無視してハルヒを追った ハルヒ「はい、みくるちゃん、ユキ」 ハルヒはオレンジ味のアイスを渡した キョン「ほれ、古泉」 古泉「どうもすみませんね・・・ところで涼宮さんと何かありました?」 キョン「・・・なぜわかる?」 古泉「おや? 冗談で言ったつもりなんですが・・・」 しまった、墓穴掘ってしまった キョン「おい、アイス返せ」 古泉「食べかけですがいいのですか?」 俺は溜息をついた 古泉「ふふ・・・涼宮さんを見ていれば分かりますよ」 お前はハルヒの何なんだ? 古泉「ま、とりあえず頑張ってください」 何をだ ドイツもコイツもまったく・・・ ハルヒ「さて、休憩もしたところだし皆で泳ぐわよ!」 長門も泳ぐ気になったのか、本を閉じて皆とビーチボールで遊んでいる 古泉「いきますよ、朝比奈さん」 みくる「あ、はい」 古泉「そーっれ!」 古泉の投げたボールそこそこ早い やらせるか! キョン「とぁーっ!」 俺が飛び込み、朝比奈さんをかばおうとしたその時 古泉「マッガーレ」 ハルヒ・キョン「すごっ!」 なんと古泉が投げたボールが曲がったのだ その曲がったボールは長門に向かって行った が、長門は何も変わりなくキャッチ 流石だぜ長門 ハルヒ「古泉君!どうやったの?ぜひ教えてほしいわ」 何故か古泉は俺に向かってウィンクした 気色悪いぜ キョン「長門大丈夫か?」 長門「平気」 キョン「だろうな・・・」 長門「彼の行動は予測できた」 キョン「何故だ?」 長門「・・・・・・・・秘密」 古泉とはいったいどんな関係なんだ? と考えていたその時、ボールが俺の顔面に飛んできた ハルヒ「今のが戦場だったらあんた死んでいたわよ!」 ありえん、絶対にありえん もしあったとしても曲がり角を曲がったらパンを銜えた少女が・・・(以下略 とりあえず、それぐらいここが戦場だと言う確立は極めて低いのだ キョン「やれやれ・・・」 時間はあっという間にすぎ、もう夕方だ 楽しい時間は早く感じ、嫌な時間は遅く感じることをしみじみ思った ハルヒ「キョン、そっち持って」 ハルヒはビニールシートを片付けていた 古泉「結構焼けましたが・・・どうです、似合ってますか?」 俺は華麗に無視し、ハルヒを手伝った ハルヒ「さて、荷物も片付いたことだし・・・みくるちゃん、夏と言ったら何?」 みくる「え、あ、う、うーん・・・スイカですか?」 ハルヒ「スイカもいいけど、やっぱり花火でしょ!」 ハルヒはバックから花火セットを出した あらかじめ準備していたみたいだな 古泉「お、花火ですか いいですね」 キョン「おい、長門 花火やったことあるか?」 長門「・・・ない」 キョン「そうか、結構楽しいぞ」 長門「・・・そう」 なんだか長門の目が輝いて見えたのは気のせいか、気のせいではないのか ビーチパラソルやら色んな物を片付けているうちに日が落ちてもう夜だ ハルヒ「じゃ、花火するわよ!」 長門「・・・」 長門は花火をじぃっと見てる キョン「これに火を点けるんだよ」 長門「わかった」 長門は線香花火に火を点けてじぃっと見ている 古泉「花火に興味があるようですね、長門さん」 キョン「長門だってそれぐらいあるだろ」 古泉「そうですね」 当たり前だ 長門だって好奇心とかあるだろ ハルヒ「ちょっとキョン、古泉君!これ持って!」 ハルヒは両手に花火を持ってはしゃぎながら言った キョン「やけにハイテンションだな」 古泉「純粋に楽しいからじゃないですか?」 みくる「本当に嬉しそうですね」 未来には花火なんてあるんですか? みくる「ふふ、言うと思いますか?」 朝比奈さんは指を唇に当てて言った ぶっちゃけ可愛いです ハルヒ「コラーッ!キョン、デレデレしないでさっさと来なさーい!」 俺は仕方がなく歩いていった 正直足が痛い ちょっと遊びすぎたか しばらく皆で花火で遊んだ ハルヒはねずみ花火を俺に向かって投げてくるし 長門は線香花火を見ているだけだし 古泉は俺を見てみぬフリ 朝比奈さんはオロオロしている シュルルル... パン! キョン「うぉあ!」 ハルヒはケラケラ笑っている キョン「ちょ、ちょっとノドが渇いたからジュース買ってくる」 ねずみ花火から逃げていたからノドがカラカラだ ハルヒ「あ、私も行く 皆何か飲む?」 古泉「お任せします」 みくる「あ、私もお任せします」 長門「・・・・・」 何だ、ハルヒが奢ってやるのか? ハルヒ「あんたが奢るのよ」 俺は財布と相談したが・・・大丈夫だ 俺達が花火しているところから自動販売機まで少し距離がある 100mぐらい歩いた時だった ハルヒ「ねぇ、楽しかった?」 キョン「あぁ、普通に楽しかったぜ 水着とか見れたしな」 ハルヒ「へ、変態」 俺だって健全な男だ ハルヒ「で・・・どうだったのよ?」 キョン「ん、何がだ?」 ハルヒ「・・・ずぎ・・・」 キョン「はっきり言わんと聞こえんぞ?」 ハルヒ「・・・・・水着似合ってた?」 キョン「あぁ、最高に似合っていたぞ ナンパされないのが不思議だ」 我ながら何言ってんだ 事実だけどな ハルヒ「ば、バカ・・・」 しばらく沈黙が流れ、自動販売機に到着し、適当にジュースを買った キョン「おい、持ってやるからジュース渡せ」 ハルヒ「べ、別に大丈夫よ!」 ハルヒは何故かムキになって全部持っている キョン「無理すんなって」 ハルヒ「大丈夫だって言ってるでしょ!」 キョン「お、おい!」 俺はハルヒの方に手を置き、振り向かせた カランカラン... ハルヒが持っているジュースが落ち、目が合う ハルヒ「・・・・・」 キョン「・・・・・」 鼓動が徐々に早くなっていく・・・ 心臓の音と波の音しか聞こえない ドクン...ドクン...ドクン... ハルヒの顔が真っ赤になっている 多分、俺も真っ赤だな ハルヒ「きょ、キョン・・・」 キョン「・・・・・な、何だ」 変な汗が出ているのが分かる ハルヒ「じ、実は・・・」 こ、この状況は何なんだ? もしかして・・・ ハルヒ「私・・・キョンの事が・・・・」 その時だった 大砲を撃った様な音が聞こえた ヒュ~・・・ドーン! 打ち上げ花火だ 近くの公園でやっているらしい ハルヒ「わぁ~ キレイ・・・」 俺とハルヒはしばらく打ち上げ花火を見ていた ハルヒはまるで、カレーに肉を入れ忘れていていたかのように ハルヒ「あ、ジュース忘れていたわ! い、急ぐわよ、キョン!」 ハルヒは慌ててジュースを拾い 走って行った 結局ハルヒは何が言いたかったんだろう・・・ まさか・・・な 俺はハルヒを追いかけるように走った 古泉「また何かありましたか?」 キョン「・・・何もねーよ」 古泉「ふふ、そうですか」 コイツ分かっているな ムカツク野郎だ キョン「長門、花火はどうだった?」 長門「・・・ユニーク」 どうやら長門は花火に興味をもったらしいな 長門「・・・・・またやりたい」 そうか、やりたかったらいつでも言え 協力してやるぜ ハルヒ「車が来たから帰るわよー!」 ハルヒの従兄弟のおじさんの車が来たようだ ハルヒ「早く来ないと置いて行っちゃうわよー!」 はいはい、今すぐ行きますよ 俺は急いで車に向かった そうだ、ハルヒ 今度来るときはカメラでも持っていこうぜ あと、鶴屋さん、谷口、国木田とか誘って行こうぜ 大勢で行った方が楽しいだろ? おまけで妹とシャミセンも連れて行ってもいいぜ それと、あの時、何を言おうとしたか ちゃんと言ってくれよ 俺は車から見える夜景を見ながらそう思った ~ Fin ~
https://w.atwiki.jp/c21data/pages/107.html
カッパLG2 名称 サイズ 潜在(開放後) 入手方法 Rank 備考 カッパLG2 S S+ - C-4 LV 重量 コスト HP EN EN回復 歩行制限 飛行制限 歩行 飛行 跳躍 射撃 格闘 物防 ビ防 火防 電防 安定 耐遅 耐凍 1 5.0t 97 600 650 71.0t 71.0t 118 110 91 45 45 60 30 58 1% 1% 30 50
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6528.html
涼宮ハルヒの遡及Ⅴ さて、俺たちは眼下に見えるカマドウマ対三人娘の激闘を尻目に、塔の外観をぐるぐる回りながら登り続けていた。 入った時は確かに内側を二階ほど登ったんだが、三階に続く階段を上ったらいきなり外に出たんだ。 ちなみに眼下に見える戦闘は、まあ激闘と言えば激闘なんだが、ド派手に爆撃音や閃光が飛び交っているものの、ここから見た感じでは、長門、朝比奈さん、アクリルさんが苦戦しているようには思えない。 というか、カマドウマたちが俺たちに気づいていないんだから、あの三人が相当手強いのだろう。周りを見ることすらできないようである。 「ううん……」 そんな中、俺はなんとも妙な既視感(デジャ・ヴュ)を感じつつ唸っていた。 「どうされました?」 「いや……なぁんか、どっかで見たような気がする塔のような気がしてな……」 などと俺が難しい顔をして呟くと、 「それは興味深い。いったいいつ? どこで?」 と、古泉は当然爛々とした瞳と笑顔で聞いてくる。 ええい! だからと言って顔を近付ける必要はまったくないだろ! 「これは失礼。そう言えばここにはあなたと僕しかいませんでした。無理に声をひそめる必要もありませんしね」 解ってるならやるな。だいたいハルヒはもう、お前らのことを知っているんだから隠す意味なんてないだろ。 「いえ、以前までこうやるのが癖になってましたから思わず」 それでもだ! だいたい、お前はいつもところ構わず俺に顔を近づけて話すから要らぬ誤解を生むんだろうが! ちょっとは自覚しろ! 「それもそうですね。僕も噂は聞いたことありますけど、僕自身、そんなつもりはまったくありませんのでご安心ください」 「ああ、そうだな。で、あんまり話を逸らしているのもあれなんで俺が感じた既視感の話だが」 「はい。どこで見たのです?」 「……いやまあ……ちょっと待ってくれ。答えはこの塔を頂上まで登った時にはっきりすると思う……」 「なるほど。では、まず登り詰めることにしましょう」 「元気だな、お前は」 「くす。そうは言いますが、あなたもまんざらではない心理状態のようですよ。おそらく僕と同じでこの状況を楽しんでいるのでは?」 そうか? いかんな、顔に出てたか。 「ええ、なんとも言えない探りを入れるような、それでいて好奇心に満ち溢れた笑顔です」 くそ。完全に身抜かれてやがる。 だいたいしょうがないだろ。俺が望んだのはこういう非現実現象だ。 俺は巻き込まれてもいい。だが、中心に躍り出るのはごめんだ。 だからこそ、今回のシチュエーションは願ったり叶ったりで、俺は現場の臨場感を味わいながら、決して表に出てこない。表に出てくるのは眼下でカマドウマと激闘を繰り広げる三人娘であり、この場ではこの塔のボスを打倒すべき古泉なのである。 まあ手助けとかしたい気持ちがないわけでもないんだが、残念ながら俺には特殊能力は何もない。ヘタに手を出せば俺は足を引っ張る存在でしかないので非常に心苦しいのだが少し安全圏で応援するしかできないのである。 「本気でそう思ってますか?」 って、なんだよ? 俺の心を読んだのか? 「いえ、あなたは声に出してましたから」 古泉が苦笑を浮かべている。 「そ、それは……」 「僕はあなたが本気でそう思っているとは考えていませんよ。おそらく、というより確信を持って言えますが、僕にしろ、朝比奈さんたちにしろ、本当に危ないと感じたときは、あなたは自分の身を省みず、誰よりも前線に飛び出すと信じてます」 「過度の期待は後からの落胆を大きくするだけだ」 「ふふっ、では少しは期待するということで、とと、どうやら頂上に着いたようですよ」 なるほどな。 俺と古泉は階段を登り切ったところで、本当にここが塔の上なのか疑いたくなるのだが、結構広い天辺にさほど大きくはないが、平屋の民家が一軒建っていたのである。 ああやっぱり…… 俺は手を頭に当てて瞳を伏せ、一つ嘆息を吐いたのであった。 よく考えてみれば。 最初からいきなり、見える範囲全てが砂漠でしかも駆けていった先に塔があるなどというシチュエーションはそうそうお目にかかるものじゃない。 不本意にもこの世界に降り立った時はてっきり、あの時のコンピ研部長氏の件の再来かと思ったのだが、考えてみればハルヒはあの日あの場所に居なかったのである。となれば、こんな風景に覚えがある訳がない。 つまり、この風景はハルヒの記憶の中にある風景ということで、流行は極端に嫌うハルヒではあるが、例え流行でも自分が面白いと思うものにはのめり込む奴でもあるので、これは二大RPGの内の片割れの六番目のシリーズの内のワンシーンということになる。 なぜ、このシーンが選ばれたのかは分からん。 しかし確かに、あのストーリーはなかなか斬新的で現実の世界と夢の世界を行き来するという誰もが憧れるシチュエーションであったことは否めない。 と言うことは無理矢理にでもこのシーンを当て込んだということは…… …… …… …… 何だろうな。なんとなくこの後の展開が見えてきた気がしたぞ。 などといつまでもモノローグを流しているわけにもいかず、俺と古泉は警戒しながら、その平屋の扉を静かに開き、 「……なんですか? アレは」 「お前、ゲーム好きな割にはテレビゲームはあんまりやらんのか?」 「ええ。もっぱらボードゲームの方が趣向に合ってるものでして。『対戦相手』がいる方がやりがいがあるものですから」 「その割には大して強くないのはどういう訳だ」 「これは痛いところを付いてこられますね。さて、そんなことよりどうします?」 古泉の視線が鋭く、しかし、どこか不敵な笑みを浮かべて、『奴』から目は離さずに問いかけてくる。 「……お前の力、ここでも使えるか?」 「はい、それは大丈夫です」 よし、ならここは向こうが気づく前に先手必勝であいつにあの赤玉をぶつけてくれ。それで終わるはずだ。 「って、はい!?」 わ! ばか! 大きな声出すな! 戸惑いで素っ頓狂な声を上げた古泉と、思わず大声でツッコミを入れてしまった俺。 「だぁれぇじゃぁ?」 当然、その平屋の主は俺たちの方へと振り向くのであった。 と、同時にそいつの影に隠れていた別の風景が俺たちの度肝を抜く。 「ハルヒ!?」「涼宮さん!?」 そう、その向こうの、厳かな縁取りをされた楕円の鏡の中には見紛うはずがない。 北高制服姿の涼宮ハルヒが鏡をバンバン叩きながら、声は聞こえないが、その表情は悲壮感溢れて何かを俺たちに訴えかけているのである。 「ほぉ……どうやら、この娘を取り戻しに来たらしいなぁ……じゃが……そうはさせんぞぇ……」 ゆらり、と『奴』が俺たちに正対する。 黒いローブに顔全体を覆うかのような剛毛の髭と髪、その瞳には狂気が宿っている。 手には三日月の刃を持つシルバーの大きな杖。それを難なく振り回してやがる。 見た目は老人なのだが、菅、仙石、枝野、前原、野田、玄葉、渡部、安住といった2011年の日本を混沌の渦に陥れた連中並みの卑しさが面に滲んでやがる。一目で判断できるぜ。こいつは間違いなくクソ野郎だ。百害あって一利無しのクズだ。 しかし何だってハルヒはこんなところに居やがるんだ? いや、その前に本物のハルヒか? 「ええ。間違いありません。あちらにいるのは本物の涼宮さんです。おそらくは僕たちをこの世界に呼び込んだ時同様、ご本人も登場させてしまったのでしょう。そして運悪く、この男に捕まってしまった……」 なるほどな。で、もう一つ大事なことを聞く。 「それは大丈夫ですよ。この老人は涼宮さんを閉じ込るまでしかしていません。あなたが危惧なされるようなことは一切なかったと見て大丈夫でしょう」 そうか。ハルヒの精神鑑定にかけては俺をも凌ぐ古泉の言葉だ。信じても大丈夫だろう。 何より、もしこのジジイがハルヒに良からぬことをしたのであれば、俺もこいつもブチ切れて突っかかって行っただろうからな。 「古泉……俺の予想通りならハルヒを助け出すにはこのジジイをぶっ倒すしかないぜ……できるか?」 「と言うことは、僕があの老人を引きつけている内にあなたが涼宮さんを助け出す、という作戦は使えないってことですね?」 「その通りだ」 「……どうします?」 俺が奴を引きつける。お前はその間に、あの赤玉を最大威力まで高めろ。 「マジですか?」 「えらくマジだ」 俺の決意を聞いた古泉が一つ、鼻で吹いている。 なんだ? その笑顔は? この場には似つかわしくないぞ。 「いえ、そうではありません。あなたはやはり僕の思っていた通りの人だと嬉しくなったんです」 「む……」 俺は渋面を浮かべて黙り込むしかない。 確かに俺は、ここに来る前に『傍観者でいる』と言った。にも関わらず、今の俺は率先して自分の身を危険に晒してしまっている。 「やかましい! とにかく打ち合わせ通り行くぞ!」 「はい!」 吠えて俺は地を蹴った! もちろん、ごく普通の一般人である俺がこいつに突っかかっていったところで結果は見えている。 もし、本当に俺に『何の力もない』なら、な。 しかし、ここはハルヒが創り出した世界だ。自分の思い通りに世界を創れるハルヒが望んだ世界がここなんだ。 朝比奈さんにはみくるビームが備わっていた。長門は魔法を使えた。古泉だって閉鎖空間でないにも関わらず超能力を行使できたんだ。 なら、たった一つだけだが、俺にも備わっている力があるはずだ。 さっき言った、『俺に特殊能力は備わっていない』を撤回する! ハルヒ! お前を信じるぜ! 「俺の本気を――喰らってみるか!」 猛スピードでダッシュする俺はそんなことを口走っていた。 「くらえぇぇぇぇぇぇ!」 両手を振りかぶると同時に、いきなり何かを握っている感触が全身を駆け巡る! よし! 迷わず俺はそれを――釘がたくさん刺さった金属バットを振り下ろし、 呪文詠唱中であったジジイのドタマを力いっぱいどついて呪文を中断させ、瞬間、片手バットに持ち替えて、怒涛の突き攻撃! 当然ジジイは吹っ飛ぶ! 俺はバットを投げ捨てた。 「こいつでとどめだ!」 再び左手に宿る、いったいどこから出てきたのかがまったく分からん黄色いメガホン! そいつが回転しながらジジイの胸を貫く! 何? 老人にんな手加減なしの攻撃していいのか、だと? いいに決まってんだろ! 俺たちSOS団はハルヒを盛りたて、ハルヒを守るためにいるんだ! そんなハルヒを軟禁した野郎だぞ! 許せるわけがない! ジジイが再び吹っ飛び、 「どいてください!」 背後から古泉の咆哮が俺を伏せさせる! 「ふんもっふ!」 ここでもどういう訳か、古泉は妙な掛け声をあげ、赤玉を軽く上にやり、バレーのスパイクの要領で思いっきり赤玉を撃ち出す! もちろんジジイに直撃だ! 着弾と同時にド派手な大爆撃音が周囲を震わせて―― 「終わりですか?」 古泉が会心の静かな笑みを浮かべるセリフを言ったその時には、 そこにはもう、老人の姿はなく、爆風に漂う砂煙が奴のなれの果てが如く、四散していくのであった。 随分、あっけないかもしれんが、これで良かったんだ。なんせ一気にかからないとあのジジイは相当厄介な相手だったからな。 で、これでハルヒを助け出してハッピーエンド。 みんなで元の世界に戻れるなら、それが一番良かったんだが、当然、そんな問屋は卸されなくて、事態はさらに厄介な方へと進むことになる。 当然だろ? 今回はハルヒも自分の力に巻き込まれたんだ。 この世界から脱出するためには、たかだか中ボス一匹倒したところで済む訳がないってことだ。 「で、お前は一体何をやってたんだ?」 「分かんないわよ! 何か急に眠くなったと思ったら、いきなり目の前に変なジジイがいるし、あたしは鏡の中に閉じ込められちゃってたし!」 俺の冷静な問いに、助かった安心感からか、俺にしがみついてきたハルヒが逆ギレして叫んだのである。 あーうるさ。 「もしかして、今日、さくらさんが言ったことをやっておられた、と言うことでしょうか? 涼宮さん」 古泉が腕組みをして、しかし、いつもの爽やかな笑顔に戻って静かに問いかけてくる。 「あ、うん……昼間にさくらさんがクリエイターになってみたら、って言ってたから漫画描こうと思ってプロット創ってたんだけど……」 「なるほど、そういうことですか」 おぅ。今回は俺でも分かったぞ。 「はい、そういうことです。おそらく涼宮さんは――」 いつも通り、解説好きの古泉らしく、話を続けようとしたのだろうけど、俺たちは古泉の次の句を聞くことはできなかった。 何故かって? それはだな…… 「何で!? 何でいきなり古泉くんが消えて、と言うか、家も消えて、いきなり、あたしたちはサバンナっぽい草原の中にいるわけ!? しかもあからさまに怪しい茂みに囲まれてるし!」 と言う訳だ。 なんで何の脈絡もなく、俺たちは二人だけでこんなところにいるんだよ。 俺はやれやれと嘆息を吐く…… などという暇などまったくなかった。 そう、ハルヒが言った『怪しい茂み』が一斉にガサガサ羽音を立てやがったのである。 と言うことだは…… 比喩ではなく、文字通りズシンという効果音が聞こえてきて、明らかにはち切れんばかりの太ももの筋肉美を魅せつける、巨大なトノサマバッタの大群が俺たちを取り囲んだのであった。 一難去ってまた一難。 その格言がやけに俺の頭の中に響き続けていやがる。 涼宮ハルヒの遡及Ⅵ
https://w.atwiki.jp/atgames/pages/431.html
カッパ ブルー 分類 : ヘアスタイル 2009年 3月 プチコインガチャ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5062.html
文字サイズ小で上手く表示されると思います 「台風」より 僕は、涼宮さんを守れませんでした。 今の僕は涼宮さんが望んだ超能力者なんかじゃない。何もできない、ただの人間です。 僕は、でかいくちばかり叩く最低の人間だったんです―― 涼宮ハルヒの愛惜 第9話 ハルヒの選択 前編 ――ポン 4階 女性下着売り場です―― 「お~っと、キョン君はここまでだよ? 長門っちのあられもない姿を見るにはまだまだ好感度が足りないから プレゼント攻勢お勧め! 買い物が済んだらメールするから本屋さんとかで色々妄想しながら待機待機ぃ!」 どん、どん、どん! みんなと一緒にエレベーターから出ようとした俺は、鶴屋さんの張り手によって個室の中へと押し戻され、 時間制限で閉まり始めた扉の向こうでは鶴屋さんと朝比奈さんが優しく笑い、長門は無表情で軽く手を上げていた。 ――下へ参ります―― 日曜のデパート。いろんな意味で新生活を始める事になった長門の日用品を揃えるべく買い物に来たのは、ハ ルヒと古泉を除いたSOS団のメンバーだ。 ここ数日、ハルヒは古泉と2人で行動する事が増えている。 今日の買い物も、本当はみんなでくるはずだったのだがハルヒと古泉は当日になってキャンセルしてきたのだ った。 さて……これは何の前触れなんだろうな? 本屋のテナントに入り、平積みになった蔵書のタイトルを眺めながらのんびりと歩いていると……何でお前が ここに居るんだ。 「やあ、どうも」 新刊コーナーに立寄ってみると、そこには何故か営業スマイルを浮かべる超能力者が居た。 ……あれ? ハルヒは一緒じゃないのか? 「ええ」 辺りを見回してみても我らが暴君の姿は見当たらない。 「長門さんの買い物に、お付き合いできなくてすみません」 みんな都合ってもんがあるから気にするな。 俺は古泉の隣に立ち、目の前に置かれていた本を何となく広げてみる。 ――ん~悪いが俺には面白い本だとは思えんな。大好評とか書いてあるけど本当に売れてるのか? 数分後、ポケットの中で携帯電話が振動を始めた。 届いたメールを確認してみると、どうやら下着売り場での買い物が終わったので1階の家電売り場に来て欲し いらしい。 時間つぶしにはなった店員お勧めらしいその本を元の位置に戻すと 「よかったら、これを読んでみてもらえませんか?」 そう言って。何故か古泉は俺に一冊の本を押し付けるのだった。 古泉。読んでみろって言っても、これってお店のシールが貼ってあるから支払い済だろ? お前が読むつもり で買ったんじゃないのか。 「そのつもりだったんですが、気が変わりまして」 買っておいて読まない? ……よくわからん奴だ。 古泉に諦める様子が無いのを見て、俺は手を伸ばした。 とりあえず借りておく。 「ええ。読み終わったら感想を聞かせてくださいね」 いつになるかわからんぞ。 古泉は俺に本を手渡すと、軽く手をあげて去っていった。 さて、あいつはこれからどうするつもりなんだろうな。もしかして……ハルヒと待ち合わせか? 気にならないといえば嘘になるが……ま、俺が詮索する事じゃないよな。 自分でもよくわからない溜息をついて、俺は1階へと足を向けた。 ーー 不思議な程、罪悪感はありませんでした。 ーー デパートの隣、そこそこに客の出入がある小さな喫茶店の中。 「……ありがとう。多分、これで変化が起きるはず」 僕の報告を聞いた涼宮さんは、自分の考えを確認するように何度も頷く。 変装のつもりなのか大きめのサングラスをかけた涼宮さんは、氷が解けて薄くなってしまったアイスコーヒー を口に含んで息をついた。 本来であればこの後、彼は長門さんと2人でデパートの映画館に行くはずだったんですよね? 「そう。でも、古泉君が渡した本は2人が今日選ぶはずだった映画の原作。きっと2人は映画を止めるはずよ」 涼宮さんがそう呟くのを待っていたかのように、マジックミラーになっている喫茶店の窓の向こう側を、4人 が通り過ぎて行った。 これは彼女が期待した展開のはずだ。 それなのに涼宮さんの口元は苦しそうに歪んでいて……僕は小さな閉鎖空間が発生したのを感じていた。 4人の姿が見えなくなった後、 「……ねえ古泉君。今日はこの後、予定とかある?」 いえ、何も。 「じゃあ、キョンと有希が見るはずだった映画。一緒に見てみない?」 はい。 「決まりね」 ことさら明るく彼女は言って、その言葉が無理をしたものだと分かっていても僕は気づかない振りをした。 ――涼宮さんの力はとても強力で、残酷な物だった。 涼宮さんが彼と長門さんの関係が近づいた事を認識すると、その力は勝手に発動するらしい。 遡る時間は不定で1日から2日。能力が発動すれば、まるでそれまでの出来事が夢だったかのようにベット の上で目を覚ましてしまう……。 最初は、自分の知っている通りに全てが進むのが楽しかったそうです。 望まない展開を避けて結果的に自分に期待した道へ進む、テレビゲームにおけるセーブとロードの様なもの なのでしょう。 ……違うのは、自分の意思ではセーブもロードもできないという事。 つまり、彼と長門さんの関係が進む事を止められなければその時間を永遠に繰り返すしかないんです。 「実はね、この映画を古泉君と見るのは3回目なの」 楽しそうに話しているというのに、彼女の顔は寂しい。 プライドの高い彼女の前で、僕はサングラスのせいでそれに気づけない間抜けな男でなければいけない。 人込みの中、僕は彼女が歩き易いようにスペースを作りながら指定された席へと向かう。 涼宮さん、結末を先に言ったりしないでくださいね? 席に座りながら言った僕のその言葉に 「それって2回目」 また、彼女は笑った。 ――せめて、その記憶がなければ。 終わらない夏休みの時の様に、改変前の記憶が彼女に蓄積されないのであればまだよかった。 あの時は周りがそれに気づくことで変化が生まれ、結果彼の活躍によってループしていた時間は彼女が知ら ない間に終わりを迎えられました。 だが、今回は自分で終わりを見つけなければいけないのでしょう。 その終わりとは――きっと。 「……ねえ古泉君、この先にキスシーンがあるの」 顔を寄せてきた彼女は小さな声で呟く。 だが、スクリーンの中では激しい銃撃戦が行われていてとてもそんなシーンに続くようには見えない。 本当ですか? そう訪ねる僕に、彼女は指を2本立てて見せる。 なるほど、この返答も既出なんですね。 やがて映画は佳境に突入し、傷ついた主役の男が1人で歩きはじめた。 不意に主人公の背後から声がかかり、振り向いた主人公の唇を声の主――一緒に戦っていた友人が奪った。 ちなみに、友人とは男性で主人公も男性。 あっけにとられる僕の隣で涼宮さんが嬉しそうに笑い、その姿を見て僕も微笑む。 涼宮さん。 「え、何?」 小さな声で話しかけた僕に、彼女は耳を寄せてくる。 その肩に手を添えて引き寄せると、僕は彼女の頬にそっとくちづけをした。 彼女の視線が僕を捕らえ、揺れる。 これは何回目ですか? 僕の質問に、彼女は顔を伏せて……人差し指だけを立てて見せた。 ――心の底から認めなければ、彼女はこの螺旋から降りられない。 この力を終わらせるには、彼女にとっての鍵である「彼」その彼が、涼宮さんを選ぶか……自分は選ばれな いという現実を受け入れるしかない。 そして、現在彼は長門さんに好意を寄せている。 ……ですが、果たしてもう1つの選択肢を選ぶという事はありえるのでしょうか? 今の僕には、それは不可能だとしか思えない。 彼女に心奪われている、僕には。 ーー な~んだか……おかしい感じがするんだよね。 ーー 「すみません、何から何まで」 そう言って頭を下げているのはキョン君だ。 可愛い長門っちの為だもん、これくらい気にしない気にしない~。 とりあえず必要だと思った家電製品が運び込まれて、殺風景だったその部屋にもそれなりの生活感が感じ られるようになった。どうやって生活していたのか分からない程空だったクローゼットにも、今は大量の服 が並んでいる。 「ありがとう。頑張って働いて、料金は必ず支払うから待っていて欲しい」 ここ最近、急に笑顔を見せるようになった下級生は丁寧に頭を下げている。 お金なんて別にいいのに。でも長門っちがそうしたいならそうしよっか。 「する」 変な気遣いされても嫌だもんね。 あ、長門っちが一晩あたしの思い通りになってくれるなら御代はチャラでもいいんだけどな~? むしろ 追加料金発生? 言いながらその陶器の様に白い肌に手を伸ばしていくと、 「「つ、鶴屋さん?」」 本気で止めようとするキョン君とみくるの声が重なった。 ちぇ~。 「じゃあ、また明日学校でな」 「おやすみなさい」 まったね~。 小さく手を振る長門っちの姿が扉によって見えなくなり、ゆっくりと廊下を歩き始めたキョン君の背中を あたしは軽く叩いた。 ねえねえ、キョン君はお泊りしていくつもりじゃなかったの? 「な? 何を言ってるんですか!」 あれ? 違ったの。おかしいな。 「違います」 真っ赤な顔で足を速めるキョン君。早く行っても、君の性格ではエレベーターで先に行っちゃう事はできな いのにね。 予想通り、エレベーターの中で開扉延長ボタンを押してくれているキョン君の横を通って、あたしとみくる は小さな個室の中に辿り付いた。 扉が閉まり、あたしは再び口を開く。 ねえキョン君、最近ハルにゃんと何かあった? 「ハルヒとですか?」 そうっさ。ハルにゃん、時々すっごく切ない目でキョン君の事見てるよ。 「……」 「私も、最近の涼宮さんの様子はおかしいと思います。話をしていても上の空の事が多いし、なんだか色々と 我慢しているみたいだから」 みくるの話を聞いた時も、キョン君に驚いている様子は無かった。 ……この感じだと、キョン君も気づいてはいたみたいだね。 それなのに今までみたいに行動に移らないのは……ん~どうなんだろう、やっぱり長門っちのせい? 沈黙が支配する個室は静かに最下層に辿り着き、扉は開いた。 「じゃあ、俺はここで」 何とか笑顔を浮かべて手を上げているキョン君に、 うん、おやすみっさ! 「おやすみなさい」 あたしはなるべく元気に手を振ってあげた。 可哀想な事をしちゃったかな? 切なげな後姿の少年を見送りつつ、あたしは久しぶりに溜息なんて物を ついてしまったよ。 みくる~。 「はい」 ……ん~……ハルにゃんとキョン君ってさ、どうしても付き合わなきゃ駄目なのかい? 「ええ?!」 目を丸くして驚くみくるは、それっきり黙ってしまった。 誤魔化すのが下手なみくるだから、キョン君とハルにゃんの間を取り持とうとしてるのくらいわかっちゃ うさ。でも、キョン君はどうやら長門っちを選んじゃいそうだし……。みくるがハルにゃんに拘るのは何故? それが何か大切な事なのかな? ……まあ、色々あって言えない事なんだろうけどね。 「あの……鶴屋さん」 何か言おうとしたみくるだけど、あたしはそのまま続けた。 あたしはさ、ハルにゃんも長門っちも古泉君もキョン君もだ~い好き。だから、あたしはみんなに幸せに なって欲しいな~って思うにょろ。……でも一番好きなのはみくるだからさ、みくるが辛そうな顔をしてる のはあたしも辛いな。 隣に居るみくるの手を握りしめると冷たかったみくるの手に自分の温もりが伝わって、ゆっくりと暖まっ ていく。 あたしの顔を見つめるみくるは何か言おうと口を動かして……でも結局何も言えなくて……。 その顔が泣きそうになるのを見て、あたしはみくるの頭をそっと撫でてあげた。 ーー 心から思ったの、「明日」が来て欲しいって。 ーー 眠れない夜を数えるのは止めてしまった。 だって、同じ夜を何度も過ごした場合、どうカウントすればいいのかわからないんだもの。 古泉君と3回目に行った日の夜、あたしはベットの中で色んな事を考えていた。 この力の意味とか、キョンとか有希の事とかみくるちゃんや鶴屋さんの事……そして、古泉君の事。 彼は優しい。 誰にでも優しい。 もし、みくるちゃんが泣いてたら……そうね、古泉君なら気の聞いた言葉で慰めてあげるんでしょうね。 キスの一つくらい、誰にだってプレゼントしそうな気がする。 キョンだったら……あいつは鈍いから、どうしていいかわからないままおろおろしてそう。 最初にこみ上げて来たのは笑い―― 頼りないあいつを思い浮かべて、間違いなく安らいでいる自分を感じるから。 次にこみ上げてきたのは悲しみ―― わかってる、古泉君がここまであたしに付き合ってくれているのは仲間とか、単純な好意だけじゃない だろうって事くらい。 でも……でも。 最後に浮かんできたのは怒り―― 自分への、怒り。 寝転んだまま時計を見ると、時計の針は0時を差していた。 少し迷ったけど、枕もとの携帯電話を引き寄せて履歴を呼び出す。一番最初に出てくるのは、古泉君。 あたし、何を言うつもりなんだろう? プルルルル―― こんな時間にかけて迷惑じゃない。 プルルルル―― 嫌われたいの? プルル――「はい、古泉です」 ……ごめん、寝てたよね。 「いえ、ちょうどテレビを見ていた所です」 本当? その割にはテレビの音が聞こえないんだけど……まあいいわ。 嘘に気づいても、自分の為についてくれている嘘なら騙されてあげなくちゃね。 あのさ……その。 「はい」 ……今日の映画、面白かったよね。 「ええ、とても楽しかったです」 本当? 「本当です」 そっか、うん。ありがとう。 沈黙。 ……こんな馬鹿げた電話なのに、彼は何も怒らない。 ねえ、古泉君。 「はい」 もしも……また昨日をもう一度やり直す事になってしまって、今喋った事を覚えていられないとした ら古泉君はどうする? 「え?」 何を言ってるんだろう? あたし。古泉君のどんな言葉を望んでいるの? 「そうですね。何も言わないと思いますよ」 ……そっか。 「本当に伝えたい言葉は、自分でも一生覚えていたいですから」 よくわからないけど、自分の事を恥ずかしいと思ったのはこの時が初めてだった。 ……ねえ、古泉君。 「はい」 今から言う言葉を古泉君は覚えていられないかもしれないけど、あたしはずっと覚えててくれるって信じ て言うから。そのつもりで聞いてね? 「わかりました」 ベットから起き上がり、暗い部屋の中を歩く。 今なら、言える気がする。自分の本心が。 無言のままあたしの言葉を待つ古泉君に、あたしは思いを告げた。 あたしは……うん、キョンの事が好きなの。 自然に出ていたその言葉は、誤魔化しようの無い自分の本心だった。 そしてね、みんなも大好き。一緒に居て凄く楽しいし、これからもずっと一緒に居たいって思うの。でも、 あたしはそれを一度、自分で壊してしまったんだと思う。キョンだけが欲しくて、他のみんなを否定して…… そんな自分自身も、最後には否定してしまった気がする。 今なら、少しだけ思い出せる気がする――部室で泣いているあたしと、震えているキョン。 だからあたしは、キョンと有希が仲良くなるのが怖かったけど何もできなかった。簡単な事なのよ、本当に キョンの事が好きなのなら、その思いを告白すればいいだけの事。でも、どうしてもそれができないの。だか ら、こんな回りくどい酷いやり方で2人の邪魔をしてるだけ……こんなのあたしらしくないよね。 「涼宮さん」 それまで、何も言わずにじっと聞いてくれていた古泉君があたしの名前を呼んでくれる。 その声が優しかった事に、あたしは泣きそうになってた。 「これまで秘密にしていましたが、僕は貴女が好きなんです」 あまりにもあっさりとした言葉に、あたしは古泉君が何を言っているのか本気でわからなかった。 ……えっ? 「僕も、この言葉をずっと覚えていてもらえると信じて話します。貴女にSOS団の部室へ連れてこられた日 からずっと、涼宮さんの事が好きでした。そして彼の事が好きなのだと聞いた今も、僕の気持ちに変わりはあ りません」 あまりにも、彼の言葉は真っ直ぐだった。 あ、あたしはその……。 古泉君の気持ちには応えられない、自分には好きな人が居るのだから。 告白なんてこれまでに何度となくされてきた事で、その全てをあたしは断わって来た。なのに、古泉君の その言葉に返す言葉がどうしても出てこない。 どうして? 彼が優しいから? ううん、違う。優しいだけの男なんて願い下げ。 それに、そんな男なら今までにも何人だって居た。 じゃあ何? 誠実だから? かっこいいから? 秘密を知ってくれているから? ……あたしはキョンが好きなのに……理由を無理やり探してでも古泉君の告白を断わりたく……ない? なんとか返事をしようと思うのに、焦ってどうしても言葉は出てこない。 早く、早くしないと断わったって思われちゃう? 何か喋ろう! 何か! 携帯電話を片手に焦っていたあたしの目の前に、その人は立っていた。 あたしの部屋は狭い個室で、当然鍵はかけている。だからあたしは目の前に立つその人が人間だとは思えな くて、幽霊か目の錯覚だと思った。 眠っていたのならわかるけど、起きていたあたしに気づかれないまま部屋に入ってくるなんてできるはずが ない。ベットの下には人が入れるスペースなんてないし、隠れるような場所はこの部屋に無いもの。 理性がその存在を人間だと認める前に、あたしの意識は消えた。 ――侵入者は、崩れ落ちるハルヒの体を音も無く受け止める。 気を失ったハルヒの手から携帯電話が落ち、床に当たって軽い音を立てた。 ―― ……悪夢、としか言いようがありません。いえ、悪夢ならいつかは醒めるのですからまだ救いがあります。 ―― 沈黙してしまった涼宮さんの返事をじっと待っていると、僕の耳に聞こえてきたのは彼女の声ではありま せんでした。 「古泉」 その声を、僕は知っていた。……知っていたからこそ、絶望した。 この声は……森さん? 「機関からの指令を伝える。そのまま自宅で待機しろ、外出は禁止する。以上だ」 待ってください! 何故貴女がそこに居るんですか? 涼宮さんは? 「わかっているだろうが指令違反は処罰対象になる、許可が出るまで部屋にいろ」 森さん! ――電話はそこで切れてしまった。 すぐにかけ直したが、聞こえてくるのは電源が入っていないというメッセージのみ。 念の為にかけてみた森さんの携帯電話も同じだった。 どうして機関が? 何故、涼宮さんを? これまで、閉鎖空間や涼宮さんに関する計画については、必ず僕の元へも事前に連絡がきていた。しかし 今回はそれがない。という事は……涼宮さんを保護する目的ではなく……考えている時間はない、とにかく 涼宮さんの所へ行かなければ! 上着を掴んで玄関に辿り着いた時、何故か僕の足は止まった。 ……僕が行ってどうなるんだ? これが本当に機関の決定だというのならば、僕にできる事など何一つ存在しない。 何故なら、閉鎖空間の中ならともかく、現実世界において機関の力がない僕はただの高校生でしかないの だから。彼女の家に行こうと思っても機関の車は使えないし、タクシーを使おうにもタクシー会社には全て 機関の手が回っている。 警察に連絡すれば? だめだ、機関が警察に分かるような稚拙な作戦を企てるはずがない。 視界が急に揺れて体が床に当たって痛みを感じた時、僕は自分が玄関に倒れたのだと理解した。 そして気づいてしまった、自分の心が折れてしまっている事にも。 涼宮さんは彼を選んだ。 僕は彼女を守れなかった。 そして、機関という力も失った。 僕に出来る事は……もう。 上着のポケットの中にある携帯電話を取り出して、僕は彼の名前を呼び出した。 短い通信音の後、 「おい古泉、何があったんだ? 朝比奈さんが電話でハルヒに何かあったって言ってるんだが、混乱してる みたいで何を言ってるのかさっぱりわからないんだ」 聞こえてくる彼の言葉に対して、自分が不思議なほど冷静だったのを覚えています。 涼宮さんが捕まりました、機関の手によってです。 「は? なんだそりゃ」 理由や状況は僕では何もわかりません、すみませんが涼宮さんをお願いします。 まだ通話口から何か聞こえていたけれど、僕は通話を終了して手から携帯を放した。 ……よく、この部屋がわかりましたね。 どれだけ時間が過ぎたのだろうか。 気がついた時、僕の目の前には彼が立っていました。 彼女に選ばれた「鍵」である彼が。 無言のままで俯いている僕に対して、沈黙に耐えかねたのか彼が躊躇いがちに切り出した。 「ハルヒの事だけどな」 涼宮さんの名前が出ても、床を見つめたまま座っている僕に彼は続ける。 「お前の言うとおり家から居なくなったらしい。鶴屋さんと朝比奈さん、あと長門を通じて喜緑さんにも 色々調べて貰ってるんだが、まだてがかりは見つかっていない」 そうですか。 僕の返事がそれだけで終わった事に、彼は驚いているようです。 ……ですが、僕にはもう貴方に伝えられる情報は何もないんですよ。 「なあ古泉、お前の居る機関ってのが何かしたにしても、お前自身は関係ないんだろ? 何をそんなに落 ち込んでるのか知らないが」 僕は関係ない。 その言葉が、彼の言った言葉の意味とは違う意味で感情を動かしていた。 顔を上げた僕を見て、彼は言葉を無くしている。 ……余程、酷い顔をしているんでしょうね。 溢れてきた感情が言葉になり、涙と一緒に零れ出した。 涼宮さんに迫った危機が機関の行動による物だとわかっても、僕は何もできなかった……できたのは、 貴方に電話する事だけ。たった…それだけ。僕は涼宮さんを守れませんでした。 自分を頼ってくれていたのに、自分の思いを伝えたばかりだというのに。 顔を上げているだけの力も無く、再び床へと視線が落ちる。 今の僕は涼宮さんが望んだ超能力者なんかじゃない。何もできない、ただの人間です。 ……そして認めなくてはいけない。僕は貴方の代わり、「鍵」にはなれないのだという事を。 彼の手が僕の襟に伸び、無理やりな力で僕は引き起こされた。 僕を見る彼の顔には怒りが浮かんでいる。 無理もありませんね。彼には何の力も無いのだと知っていたのに、これまで僕は何度も彼を頼ってきた んですから。そんな僕が、自らの非力を嘆いて座っているだけ……殴られた所で、文句も言えません。 僕は、でかい口ばかり叩く最低の人間だったんです。 自嘲気味にそう言い捨てると彼は何もせずに僕の襟から手を離し、再び僕の体は床へと崩れ落ちた。 僕には、殴るだけの価値もない……という事ですか。 ――やがて、じっと床を見つめたまま座っていた僕に彼は当たり前の様に言った。 「気が済んだか」 その声は怒りでも蔑みでもない、部室でいつも聞いていた彼の声。 え? その言葉の意味がわからずに顔をあげると、そこにはいつもの退屈そうな彼の顔があった。 「だったら行くぞ」 彼はそう言い残し、僕の返事を待たずに部屋から出て行こうとしている。 行くぞって、何処へですか? 僕の言葉に振り向き 「決まってんだろ? ……ハルヒを探しにだ」 彼は平然とそう言い切った。 涼宮ハルヒの愛惜 第9話 ハルヒの選択 前編 ~終わり~ 後編へ続く その他の作品
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/809.html
もうとっくに梅雨が過ぎてもいい時期にもかかわらず いつまでもずうずうしく居座り続ける梅雨前線のせいでムシムシジメジメしている今日この頃 期末試験も終わり我が高校における高校生活最大のビックイベント「修学旅行」の季節がやってきた 「ついにやってきたわ修学旅行が!行き先はハワイかしら?それともロンドン?もしかしてイタリアとか!?」 俺はというと今日も今日とてこのなにか修学旅行を勘違いしている団長様に振り回される日々 「んなわけねーだろだいたいなんでうちみたいなしょぼい高校が修学旅行で海外なんて行けるんだ} 「涼宮さん先ほど僕たちの学年全員を集めて修学旅行の説明があったのをご存知ありませんでしたか?」 どうしてこの蒸し暑いのにこの爽やか男はここまで爽やかでいられるのか やつの爽やかさの源はなんなのであろうか1980円以内ならばぜひとも買い求めてみたいものだ 「説明?あーなんかそんなもんあったわねでも特におもしろそうな話はなかったわ」 ちがう面白そうな話も何もこの団長様は頭の中は100パーセント以上 むしろ他人の脳みそに侵略してまでも修学旅行をいかに楽しむかという考えで満たしていただけだ 「で、古泉君修学旅行の先は結局どこなわけ?」 「北海道ですよ」 「北海道ですよ」 そうわが高校の修学旅行の行き先は北海道なわけである ちなみに朝比奈さんは学年が違うため今回の修学旅行にはもちろん参加できないがそれが非常に残念である 「北海道ねぇ~まぁこの際行き先なんてどうでもいいわ。それよりも私たちSOS団の名前をどれだけ北海道の広大な土地中に知らしめるかよ!」 またまた修学旅行も俺にとっては大変なものになりそうである 「そうねぇ~北海道といえば何かしら?ちょっとキョンなんかないの?」 あいかわらずむちゃな振りをしてくる団長様だ もしもこの団長様がバラエティー番組の司会なんてしたものなら芸人たちはつぶれてしまうだろうに 「そりゃ北海道といえば、ラーメンとか新鮮な魚介類とかじゃないのか?」 「あんた食べることしか考えてないわけ?やっぱキョンなんかに聞いたのが間違っていたわ。古泉君はどう?」 「僕の場合も基本的にキョン君と一緒なんですがそうですねぇ。しいて言えば熊とかですかね」 「それよ古泉君!キョン北海道で熊を退治してらっしゃい!」 こんな調子で修学旅行の前日となってしまった 結局のところハルヒは何を考えているのか明かすことはなかった まぁいつものことか なんだかんだいってもやはり修学旅行は楽しみである 情けないことにあまり寝れずにあさを迎えるハメになってしまった 寝不足の重いまぶたをこすりながらも期待に胸躍らせながら空港へ 「平和に3日間過ごしたい」 これが俺の本音であるがもちろんその件に関してはまったく期待はしていない 「逃げずにまってなさいよ!修学旅行!」 朝からわけのわからぬことを叫んでいる団長様を空港にて発見 俺がもし修学旅行という物体ならばできるものならハルヒから逃げてみたいものだ 「キョン眠そうねぇ?もしかして修学旅行だからってワクワクして眠れなかったとか?」 朝からなかなか痛いポイントをつかれる にしてもなんでこいつはこんなにいつも元気なんだろうな まぁ今に始まったことでもないしな そこで俺はあることに気がついた 「ハルヒよなんなんだその荷物の量は?」 「秘密よひ!み!つ!」 ますます先が思いやられる 「とりあえず荷物が多いの」 そんなことは見ればわかる 「だがら荷物が多いって言ってるでしょ」 はいはい俺が持てばいいんだろ鞄を これまた情けないことに下僕体質というかなんというかすっかりハルヒに振り回されることになれてしまったのか 「ねぇキョン?実際に飛行機が墜落したらジェットコースターみたいで楽しそうじゃない?」 あまりにも不謹慎すぎる発言だ!しかもこいつの例の能力でそれが具現化してしまったらどうしてくれるんだ! 「おはようございます涼宮さん。キョン君も朝からご苦労様です」 眠気眼にこの笑顔はまぶしいな相変わらず 「そろそろ搭乗時間ですので移動をしたほうがいいかと」 古泉の後をついて行き飛行機の中へ ハルヒよ墜落したいなんて思ってないだろうな! なんとか飛行機も落ちることなく俺の命も落とすことなく空港に無事ついた 「SOS団もついに北海道進出よ!」 飛行機から降りても元気な団長さんであった その後バスに乗り込み北海道をぐるぐるとまわった その際にハルヒにいろんなことをさせられたのは今思い出してもおぞましいことばかりなのであえて伏せておきたい 乗馬体験中に俺の乗っている馬の尻をハルヒが叩いたりなんて悲惨なもんだった俺は決してジョッキーではない なんとか一日目の日程を消化しホテルへ向かうバスの中 朝からあれだけパワフルだった団長様はというと今俺のよこでかわいく寝息をたてて寝ていらっしゃる こうしてみていると抱きしめたくなるほどかわいいな・・・いかんいかん俺は何を考えているんだ相手はあのハルヒだぞ!? ハルヒの意外な一面を見て何か違和感のようなものを感じつつもバスはホテルに到着した あのときの違和感がじつはあんな感情につながったとはな 「おいハルヒ着いたぞ起きろ」 「んぅ~なによもう朝?」 「ホテルに着いたんだよ」 寝ぼけた団長様もなかなかかわいいなっておい何考えてるんだ俺! そんな突っ込みを入れつつもハルヒをつれてホテルへ 「じゃあこの後8時から入浴でその後~」 教師の長ぁ~い説明が終わりとりあえず今は自由時間だ どの修学旅行でも思うがなんでしおりに書いてあることをわざわざ教師たちは読み上げるんだろうな 自由時間こそ修学旅行最大の楽しみでもあるというのに 朝からずっと行動をともにしてきたハルヒだが当然泊まる部屋は別である 俺の部屋はというと国木田と谷口の3人部屋である 女子の部屋のある階とはだいぶ離れているがまぁ当然であろう 部屋についてすこし落ち着いて一瞬いやな予感がしたと思ったらケータイが光りだした もちろん相手は「涼宮ハルヒ」 「ちょっとキョン今すぐきて!5秒以内!やっぱ3秒とりあえず早く着なさい!」 相変わらずのお呼び出しだが今回はなんかいつもと違ってあせっていたように思えたがまぁろくなことではないだろうと思いつつハルヒの部屋へ 「ゴキブリよゴキブリ!早く退治して!」 おいまてハルヒよなんでゴキブリが出たら俺を呼ぶんだ 第一北海道ってゴキブリいないはずじゃないのか 「で、どこに逃げたんだそのゴキブリは?」 「あっちのほうよ」 にしてもハルヒがゴキブリ嫌いだとは意外だったな そんなことを考えつつゴキブリを探すとあることに気がつく なんとハルヒが若干涙目で俺の腕にしがみついてる! バスの中であんなこと考えてたせいか結構これはダメージでかい しかも見慣れぬ部屋着姿だ 「きっとカーテンの裏よ」 そこで俺はカーテンをめくってみることに するとそこにはゴキブリではなくただ一枚オセロが黒いほうを上にして落ちているだけであった 「一体これはどういうことだハルヒ?」 「ごっ、ごめん。本当にゴキブリだと思って・・・。」 どうやら今回はハルヒが仕組んだわけではなく本当にゴキブリだと思ったようだ にしてもハルヒがこんなに素直なんて本当に怖かったんだろうな。 「いいよ俺もゴキブリは苦手だし実際に本物じゃなくて安心している。それにしてもなんでお前の部屋は誰もいないんだ?」 「先にお風呂に行ったのよ。あたしも行こうと思ってスーツケースをあけてたらゴキブリに気づいて」 それにしてもこいつに女子の友達なんかいたか? 「ねぇキョン!お詫びにジュースおごってあげるから少し外散歩しない?」 「こんな時間に抜け出すのか?先生たちにばれたら大変だぞ?」 「このあたしの誘いを断る気?そんなのばれなきゃいいのよ」 もういつものハルヒに戻っていた 俺も実際特にすることもないのでハルヒの言うとおり窓から外へ抜け出した 「いいわねぇ~北海道の夜って涼しくて」 ホテルの外は少し車の走っている程度の道が有るくらいだったが 車のヘッドライトの明かりに映されるハルヒの姿はとても輝いて見えた。本当にキレイだった 「なっ、何見てんのよ?」 ハルヒに見とれていたことをハルヒに気づかれてしまった 「いや、特になんでもない」 とっさにごまかしてみたがムリであろう 「怪しいわねぇ~・・」 ハルヒに見つめられていた次の瞬間ハルヒは俺のポケットから財布を抜き取り走り出した 「お、おい!」 「返してほしければ追いついてごらんなさい!」 まるでいたずらをした子供のようにハルヒは笑っていた って最初はそんな余裕をかましていたがハルヒの足は速かった 普通こんなとき全力疾走しても追いつけない速さで走るか? 「ハァハァ。 ちょ、まってくれ 」 「情けないわね~」 ハルヒの油断した瞬間に俺は財布に手を伸ばした するとハルヒはバランスを崩してしまい転倒 俺も引っ張られるように転んでしまった 俺はハルヒを守ろうとしたんだ。これは本当だぞ そう、ハルヒを守ろうとして右手でハルヒの頭を抱え込むようにして俺はハルヒの上に倒れこんだ まぁつまり抱きしめているような状態だ 「イテテテテ・・・。」 「イッタ~ちょっとキョ・・」 すぐにハルヒを離したが助けようとしたのは事実であるが結果としてハルヒに抱きついてしまった 蹴りでも喰らうと覚悟をした 覚悟をして目をつぶったが何もこない おそるおそる目を開いてみると ハルヒが頬を赤らめて座っているだけであった 「ご、gおあ、ごめん。そそんな下心とかはなかったんだぞ」 俺のいいわけもハルヒの耳には通っていないようだった 「ハルヒ?」 声をかけてようやくハルヒは気がついた 「なっなにしてくれたのよ」 その顔は怒っているというよりもむしろ照れているように俺には見えた 俺は立ち上がりハルヒに手を差し伸べた ハルヒは俺の手をとるが下を向いたままであった 「ねぇキョン?」 「なんだ?」 「あたしあの丘の方へ行ってみたい。」 ハルヒに手を引かれるまま俺たちはその丘のほうへ ふもとに看板があったがどうやらこの上には公園があるらしい 「暗いから足元気をつけろよ」 「大丈夫、こうやってキョンに掴まってるから」 なんとかケータイの明かりを足元に集め俺たちは公園を目指して歩いていった ふもとから見るのと違って実際に上ってみるとなかなかの距離があった その間俺とハルヒはさっきのことがあってかほとんど口を聞くことが出来なかった その空気を乗り越え山道を乗り越え俺たちはようやく頂上の公園にたどり着いた そこから見える景色は言葉では言い表せないほど美しかった 光り輝く街もさることながらやはり 「海 山 空」 北海道の自然の景色に勝るものはないだろうと思った 「きれー」 「あぁそうだな」 俺たちは景色に見入ってしまっていた 俺の左側に立っていたハルヒがだんだんと俺のほうへ近づいてくるのを感じた 「ねぇキョン。」 「なんだ?」 「私たちが出会ってからもうだいぶ経つね。」 「あぁそうだな。」 「最初ね、キョンに会ったときはまたつまらない男だなと思ってたんだ」 「俺も似たようなもんだ。最初にハルヒに会ったときはなんなんだこいつは?と思ったからな」 「でもね、今ならそんな最初に思ったことを取り消してもいいわ」 今ハルヒはなんと言った?もしかしてこのシュチュエーションでこの流れ。もしかしてもしかするのか!? そんな俺の自意識過剰もはなはだしいよな だがあのバスでハルヒの寝顔を見てからというもの俺の中で芽生えた感情はやはりハルヒに対する恋心だったのか? やけにドキドキする 「あぁ」 特に何もハルヒに言い返すことが出来なかった「あぁ」ってなんだよ「あぁ」って! 「それでねキョン・・」 ハルヒがまた一歩近づいてくる 俺の胸の高鳴りはピークをゆうに超えている ドキ・ドキ・ドキ ハルヒが近づいてくる ハルヒの匂いが感じ取れる 次の瞬間俺は目を閉じた そしてハルヒは・・・ パシャ! ?パシャ!って あろうことかハルヒは俺のキス顔をケータイで撮影していた! 死にたい!死ぬほど恥ずかしい!いっそ俺を殺してくれ 小悪魔のような笑顔でハルヒが微笑む 「べーッ!」 「ちょ、ハルヒ!」 「私の唇とキスなんてできると思ったの?」 死にたい死にたいお願いだ誰か俺を閉鎖空間に閉じ込めてくれ 俺はハルヒに対して怒る気力もなかった 「そ、そんな・・」 俺はうなだれたそれは恥ずかしさから来るのだろうかそれとも一方的な片思いに落胆したのだろうか 「ちょ、ちょっと最後まで人の話はききなさいよ勝手にうなだれてないで」 ハルヒが何か言っていたが聞こえなった 「あたしは別にキョンが嫌いとかそんなんじゃないのよ!」 ????????? 「ただ、」 またしても赤くなり下を向くハルヒ 「ただ?」 「ただ、お互いの気持ちも伝えてないのにっておもって・・・」 ハルヒよハルヒ本当にその言葉を信じてもいいのか?俺はもう次にさっきのようなことがあっても立ち直れるほどHPは残っていない 「ちょっとキョンきいてる?」 「あぁ」 「じゃあ言うからね。あたしはキョンが好き。キョンがいなければ毎日今のように楽しい生活なんてできてないと思ってる 今のあたしはきっとキョンなしではいられないと思うの。だからこんな女だけれども一緒にいてほしい。」 下を向きもっと赤くなるハルヒ かわいいかわいすぎえる!今すぐに抱きしめたい! 「お、俺もハルヒ、お前が好きだ。なんだかんだでハルヒに振り回されたりもしたが今はやっぱりハルヒといるのが一番楽しい 俺の気持ちも一緒だ。俺もハルヒと一緒にいたい」 そうして俺はハルヒを抱きしめた そして俺は少し屈み、ハルヒは背伸びをし唇を重ねた その光景を北海道の美しい光景が見守っていてくれた 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/551.html
今の季節は秋。 ある日、いつものように学校を終わらせ、SOS団室へ向かった。 ノックしたが、反応も無い…。 俺は、迷わずドアを開けた。 中に入ると、目の前にハルヒが寝てる。 うむ、道理で返事してなかった訳か…。 「全く…起こすか…」 少し溜息しながらハルヒを起こそうと…思ったのはいいが…。 俺、疲れてると思う。 想像してくれ、寝てるハルヒの後ろに本物の尻尾が生えてるし、頭に本物の猫耳が出てるし、おまけに猫耳がピクピク動いてる。 近くに、水無いのか? 周りを見ても無いので、便所へ行って顔洗い、戻って見ると…やっぱ猫耳と尻尾がある。 これは、どうしたものが…幻覚か!? 長門は、いない。 古泉は、いない。 朝比奈さんは、いない。 …そういえば、3人は用事があったな。 この状況はどう把握すればいい!? 助けて!スペランカー先生! …にしても、起こすべきか?起こさないべきか? もし起こしたとすれば、猫並みに行動するのかもしれない。 いや、ハルヒの事だからな…するに決まってるだろうな…。 えぇい、起こすしかないのか! 「おぃ、ハルヒ…起きろ」 「フニャ?あ、あれ…キョンじゃないニャ」 嘘だろ!?口調も変わってるし! 「ふにゃぁ…って、あれ?何か口調が変だニャ」 これは、ハルヒに知るしかないな。 「ハルヒ…落ち着いて、深呼吸してくれ」 「え?何でニャ?」 いいから、しろよ。 「スー、ハー、スゥー、ハー…したニャ」 「よし、鏡を見ろ」 俺は、どこから取り出したが知らないか、大きな鏡を持って来て見せた。 「…何これ?」 俺に聞くな…俺も頭を抱きたい。 「もー!取れないニャ!どうなってるニャァ!」 俺も言いたいわ!どうなってんだぁぁぁぁぁ… 「ハッ!古泉や長門がここにいなくでも携帯があ…」 しまったぁぁっ!携帯は家に忘れたーっ! 何で事だ…昨日、電気が切れたので充電してたのだ。 それを忘れるなんで…。 落ち込む俺の前にハルヒがいる。 「さっきから、態度が激しいけど…大丈夫かニャ?」 ヤ、ヤバイ…今回のハルヒは可愛すぎる!? 「だ、だ、だだ、大丈夫だ!そぅ、大丈夫だ!はっはっはっはっ…」 俺は、誤魔化しながら部室から出た。 「キョン、どうしたニャ?」 ハルヒは、首を少し横に傾いて、頭の上に?のマークが出る。 ヤベェ、理性が暴走する所だった。 「くそ!誰がやったんだ!」 本当に苦悩してしまう。 ん、待てよ。 ハルヒの能力って確か…どんな願いでも必ず叶えてしまう能力あったな。 バァン! 「うにゃぁっ!」 俺は勢いよく扉を開けたせいで激しく驚いたハルヒがいた。 「ハルヒ、猫になりたいと言う願いあったのか?」 「そういえば、そうニャねぇ…そう思ってたニャ」 やっぱし…こいつの願いのせいで…。 でも、本当によく出来てるなぁ。 俺は猫耳を触れた途端。 「フニャァ、触るなニャ!」 ど、どしたんだ!ハルヒ!? 「そ、その…感じたニャ…」 うむ、そこも完全に猫になってるのか…。 だったら、顎と喉の辺りにを触れたらどうなるのかな? 「ふにゅぅ、気持ちいいニャァ…」 ほほぅ、可愛いなぁ…。 「って、さ、触るなニャ!」 あ、照れた。 よし、色々やってみよっと。 「ちょ、や…やめ…」 ――30分後 「……」 「フン!」 「…痛いんだけど、ハルヒさん」 「知らないニャ!」 俺の体に引っ掻かれた後があり、服もボロボロになった。 全く、引っ掻く事は無いのだろう…いや、俺も悪かったな。 「でも、気持ち良かっただろ?」 「し、知らないニャ!」 ハルヒは俺を見ずに言う。 「だけど、尻尾だけは素直だぜ」 そぅ、ハルヒの尻尾は大きく振っていた。 「な、何をバカな事を…」 「猫の尻尾は感情表れやすく、大きく振れば嬉しい。怖い時は引っ込む。警戒する時は尻尾か立つ…だったな」 「~~~!」 流石、ハルヒは反論出来ないみたいだな。 さて、これからはどうするか…。 このまま出たら、バレそうだな。 どうしたらいいのやら…。 「ハルヒ、取りあえず、尻尾だけは隠しとけ」 「分かったニャ」 俺は、部室から出て、この後どうするべきかを考えた。 まず、ハルヒを俺の家へ連れて行って…古泉か長門どっちが電話するしかないな。 はぁ、何か疲れたよ…。 俺は、大きく溜息した。 これからの目的をハルヒに伝えといたが…。 ハルヒが慌てたり嫌がったりゴロゴロと態度を変わってるのが面白かった。 「さ、帰るニャ」 漸く、落ち着いたようだ。 この後…俺達は、部室を後して学校へ出たのはいいか…緊急事態だ。 何故なら、俺達が歩いてる時に後ろから声が聞こえた。 「やっほー、キョン君とハルにゃん!」 鶴屋さんがやって来たのだ。 「あ、こんにちわ」 「キョン君とハルにゃん、今から帰るのかぃ!」 相変わらずハイテンションな人だな。 きっと、悩み事は無いのだろう。 「え、えぇ…そうです」 「おや、ハルにゃん!何この猫耳は?」 「……」 あ、ハルヒが真っ赤になって黙ったまま俯いてる…。 「んー、どうしたのかぃ?ハルにゃん?」 そうだ、誤魔化さないと。 「あ、ハルヒはですね…昨日、カラオケしてたので、喉が痛んでるんで…あぁ、これは罰ゲームですから」 「あー、そうかぃそうかぃ!私はでっきり、キョン君が何か変な事したんじゃないかと思ってて!」 うっ…これは痛い。 痛恨の一撃だ…。 「す、する訳無いですよ!」 「あー、あっやしい!」 と、ケラケラ笑う鶴屋さんが言う。 からかないで下さい鶴屋さん。 さっきまでは本当に大変なんですよ…。 「じゃ、二人とも、まだねぇ!」 はぁ、さっきより疲れが来た…。 俺は、横目でハルヒを見た。 まだ真っ赤になって俯いてるな。 俺もだけど。 「やれやれ…」 そして、帰路を歩いてる途中、まだ誰が来た。 「WAWAWA、忘れ物~」 ちっ、谷口かよ、こいつはチャックを開ける事が多いから「チャック魔」と呼ばれる可哀相な男だ。 「…うぉぅ!?キョンか…」 何だ、今の安心したような顔は…。 「いやー、実はさ…さっきナンパしたけどな…って、おわっ!?ハ、ハルヒ!?」 おぃ、気付くの遅いわ! 「キョン、これは新しいコスプレなのか?」 どこがコスプレに見えるんだ…。 「ネコ耳ねぇ、尻尾もあるのか?」 さぁ、自分で調べてみろ…殺されるぞ。 「え、遠慮しとくわ」 立ち去ろうとする谷口、腰抜けめ! 「あー、谷口」 「な、何だ」 「言おうと思ったけど、チャック閉め忘れてるぞ!」 「って、おわっ!マジかよ!?」 「あと…後ろ歩きしたら、危な…」 「おうわぁぁぁ…」 遅かったか…。 後ろにマンホールの蓋が外れてるから落ちるぞと言おうとしたのに…遅かったか。 「キョン!それを早く言えぇぇぇ…」 俺は谷口を救ってやりたい所だが…日々の恨みあるので無視しよう。 谷口を放って置いて俺の家に帰った。 さて、家に帰ったのはいいけど…生憎、親が居ないので助かった。 妹?アイツなら、野外活動へ行ったぞ 「あー、キツかったニャ…尻尾を隠すのにキツかったのニャ」 やっと、喋ったな…ハルヒ。 「ハルヒ、風呂沸いたから…風呂に入れ」 「うん」 ふぅ…流石に疲れた。 あ、これで言うの3回目だっけ? まぁ、いい…古泉に電話しとかないと… 「…ョン、キョン!」 「うぉわ!?ハ、ハルヒが…どぅ…」 俺の目の前には、全裸のハルヒがいた。 それは、どういう事だ。 夢なのか!夢なのか!? 「風呂の湯、熱くで入れないニャ!何とかしてニャ!」 「そ、そそ、それは分かったけど…お、おおお、お前…ま、前隠せよ!」 「え?」 ハルヒは、自分の体を見て、顔真っ赤になった。 「ニャァァァァァァァァァ…」 ハルヒの悲鳴は家中に響いた。 ――数分後 ……。 「ゴメン、ゴメンなさいニャ!」 俺は、怒ってるぞ…ハルヒ。 「あまりにも熱さで忘れてたニャ!」 へぇへぇ、そうかぃそうかぃ。 「ちょ、ちょっと聞いてるニャ?」 皆さんに、状況をお知らせしよう。 ハルヒは悲鳴を上げた後、俺の顔に引っ掻かれ風呂場へ逃げ出した。 で、ハルヒが風呂上がった後、自分で何をしたかを把握し謝ってる所だ。 「…で、どうすんだ?この傷はよ?」 「えっと、それは…その…」 戸惑うハルヒって可愛いな。 まぁ、許してやるかな。 「あー、分かった分かった。許してやるよ」 「え、本当?」 目を輝いて、尻尾を大きく振ってやがる。 「取りあえず、腹減ったな…」 今の時間は、もう7時過ぎてる。 夜食を出していい時間だろう。 「あ、あたしが作ってやるニャ!」 ハルヒは、そう言って台所へ向かった。 何分経ったのだろうか。 物音が聴こえない…まさかと思って見てみると。 ハルヒは、よだれを流しながら魚をずっと見てた。 「おぃ、ハルヒ…何やってるんだ」 「え?うわっ!はははは…つい魚を見てると食べたくなるニャ」 こりゃ、猫の本性だな。 「魚は俺がやるから、それ以外のを作れ」 「わ、分かったニャ」 さて、古泉と長門に電話するか。 俺は電話を掛け、古泉に電話した。 「もしもし、カメさん、カーメさんよー」 くだらん事言うな。 「あぁ、面白くなくて、すみませんね」 そんな事より、聞いてくれ。 「はい」 俺は、今までの出来事を説明した。 「…と言う訳だ」 「確かに、涼宮さんの願いによってこうなったと思いますね」 お前も思ってたのか。 どうすればいい。 「キスする事しかないですね」 ふざけるな。 「冗談ですよ、涼宮さんの願いを変えればいいんですよ」 あぁ、その手があったのか。 「と言う訳で、言いたい事は終わりです。では」 お、おぃ!…切りやがった。 明日でも会って殴る事にしようか。 次、長門に電話するか。 「…もしもし」 おぃおぃ、電話を掛けてから1秒も経ってないのに早いな。 「よっ、実はな…」 「状況は把握してる…」 それなら、説明しなくてもいいんだな。 「だったら…」 「あとは、あなたに任せる…おやすみ」 ちょっ…切りやがった…。 ってか、早い会話だったな、おぃ…。 明日でも軽く説教したい気分だぜ。 俺がブツブツ言ってる間に、ハルヒが来た。 「ご、ご飯出来たニャ…」 そんなに顔赤らめても困りますけど。 後は、俺が魚を焼くだけでやっと食べれる。 さっきから、台所の入り口から物凄く見られてるような気がするが…気のせいだと思うことにする。 「ほれ、出来たぞ」 「ゴクッ…」 …ずっと、魚を見てるな。 まぁいい、食べるか。 「いただきます」 「いっただきまーすっ!」 俺は呆然してしまった…何故なら。 合掌した後、すぐに俺の魚を奪いやがった。 「おぃ、ハルヒ…それは俺の物だぞ」 俺は、箸で魚を取り返そうとしたが…手に引っ掻かれた。 ハルヒは、フーーーッと言いながら尻尾立ってた。 あぁ、尻尾立ってるって事は、警戒してるってか。 「はぁ…やるよ…」 ハルヒの態度がゴロッと変わった。 「ありがとニャ!」 魚を奪いやがって…あぁ、いまいましい、いまいましい、いまいましいっ! こうして、夜食が終わった。 ハルヒよ、魚の恨み忘れんぞ。 この後、ハルヒがシャミセンと喧嘩したり、意味も無く壁を引っ掻いたりするから大変だった。 本人は無意識でやっただけらしい…本当に猫の本性を発揮してるみたいだな。 そして、寝る時間になった。 「なぁ、ハルヒ…元の姿に戻りたいと思わないか?」 「んー、戻りたいと思ってるニャ」 なら、簡単だな。 それにしても、何故、猫に? 「なぁ、一つだけ言っていいか?」 「何ニャ?」 ちょとんとするハルヒもまだ可愛いな。 「何故、猫になりたがったのだ」 「んー、猫になれば新しい発見出来るかなと思ってたニャ」 なるほど、単純な考えだ。 「それに…」 それに?何だ。 「あ、な、何でもないニャ!」 「そうか…」 俺は、牛乳入ってるコップを飲み干した。 ふぃー…美味! 「あ、キョン…口の辺りに牛乳が付いてるニャ」 「お、スマンな…」 ティッシュで拭こうと思った瞬間、ハルヒが信じられない行動をした! ハルヒが俺の顔に近づいて、口の辺りに付いてた牛乳を舐めたのである! 思わず、手で口を塞いだ。 「な!ななななななな…」 「あ!ゴ、ゴ、ゴメンニャ!も、もう寝るニャ!」 ハルヒは、素早く俺のベッドへ行き毛布を被って寝た。 俺は、石化してしまった。 翌日、ずっと固まってた俺はやっと動けた…。 「眠い…」 何でこった…昨日からアレのせいで石化してしまったとは…。 洗面所から出た途端、二階から何やらドタバタと聴こえる。 「キョン!猫耳と尻尾が無くなったわよ!」 ほぅ、それは良かったな。 「やったーやったー!」 子供のようにはしゃぐハルヒである。 「さて、朝食作るか…」 「あ、キョン、お礼に朝食作るから…その間寝ていいよ」 おー、スマンな。 ハルヒの手料理はおいしいからな。 「それに、昨日はゴメンね」 分かってるさ、アレは猫の意識だと言いたいのだろう。 さぁ、寝るとするかね。 キョン、ゴメンね。 本当は、あたしの意識でやっただけだからね。 お疲れ様…キョン…。 あたしは、嬉しくて料理いっぱい作っちゃった。 キョンって、全部…食べてくれるのかな? そう思いながら、キョンを起こしに行った。 「起きなさい!キョン!朝食よ!」 シャミセン「ニャア?」 完 「あれ?私の出番、無いんですかぁ~酷いですぅ~」